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本編
58話:第2王子の部屋を荒らす訳にはいきません
しおりを挟むブリムンド王国王都の中央に位置する王宮。
大広間では、現在第一王子ルキウスとシャーロットの披露宴が盛大に執り行われている。
その同時刻、王族の居住エリアにある第二王子ラシオスの私室の中で、三人の男女が睨み合っていた。
アイデルベルド王国王太子ローガンの護衛、ヴァイン。
ブリムンド王国カスティニア公爵家次男カリオンの従者、カラバス。
そして、
ブリムンド王国スパルジア侯爵家長女フィーリアの専属メイド、エリル。
それぞれ得物を手にしている。
王子の私室だけあって天井が高く広いが、剣を振り回すには向かない。下手をすれば高価な家具に傷が付く。しかし、ここで負ければラシオスの命が危ない。
「私は周囲に被害が及ばないように致しますね。カラバス様、ヴァイン様のお相手をお願い致します」
「……まあ、妥当な分担でしょう」
少々腑に落ちない表情を浮かべてはいるが、カラバスも女性に戦わせる気はないようで、エリルの提案を承諾した。腰の長剣は抜かず、予備の武器である短剣を手にしている。
「貴方とも仲良くなれたと思ってたんですけどねぇ」
「私はそうは思いません」
「ブリムンド王国の人は頭も身持ちも固い。……本当に、残念です」
喋りながら、ヴァインはじりじりと距離を詰める。ソファーを挟んでぐるりと円を描くように移動し、カラバスは彼の間合いに入らないように注意した。
しかし、短剣は投擲も可能。
瞬きの隙を突いて投げられた短剣はエリルが咄嗟に棍で弾き、ソファーの座面やテーブルを傷付けることなく柔らかな絨毯の上に落ちる。
丸腰となったヴァインに対し、カラバスがスツールを飛び越えて襲い掛かった。
「何の備えも無しに投げると思いました?」
素手で立ち向かうかと思われたが、ヴァインは上衣の下から追加で短剣を取り出し、カラバスの刃を受けた。
ギリ、と短剣の鍔同士が擦れ合う鈍い音が響く。
絨毯に落ちた短剣を拾い上げ、エリルがヴァインに向かって投げつけた。だが、これは読まれていたようで、カラバスとの鍔迫り合いを中断し、彼は短剣の刃を掴んで受け止めた。
「あ、そのまま奪っておけば良かったですかね」
「いえ、元々彼の武器ですから問題ありませんよ」
自分の判断ミスかと凹むエリルをカラバスが励ます。二人の会話を聞いて、ヴァインが眉間に皺を寄せた。
ヴァインに合わせて得意の長剣から短剣に得物を変えたり、短剣を戻すことを責めなかったり、カラバスからは殺気が感じられない。エリルもそうだ。サポート役に徹して家具を守るばかりで、ようやく攻撃したかと思えばこれだ。
「貴方がたは私を倒す気はないのですか」
「倒したら運び出さないといけなくなるじゃないですか」
「それは手間ですし、とにかく諦めてほしいだけです」
キッパリ答えられ、ヴァインは呆れたように大きく息を吐き出した。そして、手にしていた二本の短剣をわざと手から落とした。彼がいる場所は壁際の暖炉のすぐ側。足元に絨毯はない。
このまま落ちれば刃が床を傷付けてしまう。
そう思ったエリルが駆け出し、床に当たる寸前で棍を横薙ぎにして短剣を弾き飛ばした。飛んだ先には絨毯がある。ぽすん、と二本の短剣が着地したのを見て、エリルは安堵の表情を浮かべた。
「──だから、そういうところが甘いんですよ」
「っ!」
短剣を弾くために近付いたエリルの手を軽く踏みつけ、棍を取り落とさせた。腕を伸ばし、グイッと彼女の身体を片手で持ち上げる。そのままエリルの背中側から羽交い締めにした。
「家具やら床やらを気にしてる場合じゃないでしょう。ねぇ?」
「……でも、直すにも費用が掛かりますし、痕跡が残ると私たちが侵入したことがバレてしまいます」
捕まった状態で、エリルがばつが悪そうに呟く。
「……貴方がたは許可を得てここにいるのでは?」
「いえ、私たちも無断で侵入してます」
「はあ???」
これには、流石のヴァインも驚きを隠せないようだった。
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