【完結】うちのお嬢様が婚約者の第2王子から溺愛されているのに真実の愛を求めて婚約破棄しそうです。

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
55 / 71
本編

55話:あの令嬢が呼ばれたのは誰の策でしょうか

しおりを挟む


 王都の土を踏むのは何ヶ月ぶりだろう、と彼女は思った。

 馬車から降り、案内されたのは間違いなく王宮へと続く道。下位貴族の令嬢が呼ばれるには不釣り合いな煌びやかな場所である。彼女は震える足を軽く叩いて気合いを入れてから、鏡のように美しく磨かれた石の廊下を歩き始めた。






 数日前、この国の大臣から名指しで招待状が届いた。第一王子の結婚披露宴への招待だ。元クラスメイトである第二王子ラシオスならともかく、何故第一王子ルキウスの披露宴に呼ばれるのか分からず、手紙を運んできた使者に何度も尋ねたが、どうやら人違いではないらしい。

 急な招待を詫びるようにドレスや小物類も同時に届いた。これを身に付けて参加しろということだ。つまり、支度が間に合わないから参加出来ないという言い訳は通用しない。

 おかげで見た目だけは王宮でも恥ずかしくないように装えたが、中身は木っ端貴族のまま。彼女は重い足取りで案内係の後ろに付き、会場を目指した。

「あぁら、お久し振りですこと。お元気そうで何よりです。来て下さって嬉しいわ」
「ごっ、ご無沙汰しております!」

 途中、声を掛けられた。元クラスメイトの高位貴族の令嬢たちである。彼女たちは王宮内でも微塵も臆することなく堂々と振舞っていた。あまり仲が良いとはいえないが、不慣れな場所で顔見知りに会えたことで、彼女は内心ホッとした。

「そんなに畏まらないで。……ああ、やはり貴女の髪には淡い色のドレスが似合うわね」

 招待状をくれた大臣はこの令嬢の父親である。ドレスの見立ては彼女がしてくれたのだろう。

「あの、私は何故呼ばれたのでしょう」
「以前のお詫びも兼ねておりますの。さあ、私たちと一緒に参りましょう」

 以前とある誤解から、この令嬢たちから責められ、心労から貴族学院を休学することになった。現在も休学中で、田舎の領地で伸び伸び過ごしていた。
 そんな時に招待を受けたのである。

「あ、そうそう。貴女も恋愛小説を読むのよね?」
「お詫びの印として受け取ってもらえるかしら」

 そう言って双子令嬢の一人がクラッチバッグから取り出したのは小さな薄い本。小口が鮮やかなピンクに染められ、表紙は金糸で刺繍が施されている。

「こっ、これはもしや、先日発売された限定の小冊子! 手作り装丁のため世に百冊しか出回っていないという、あの伝説の限定本ですか?」
「ええ。作家の方とお父様が付き合いがあって、特別に融通していただきましたの」
「私たちの読み古しで悪いのだけど、良かったら貰っていただける?」

 田舎の領地にも書店はあるが、限定本は当然入荷されなかった。そもそも、その限定本の存在を知った時には発売日はとうに過ぎており、この時ばかりは休学して田舎に引っ込んだことを後悔した。
 憧れの限定本が目の前にある。
 彼女は飛びつきたくなる衝動を抑え込んだ。

「こ、こんな貴重なお品を頂いても……?」
「もちろんよ。忘れないうちに受け取って」
「すっごく素敵なお話だったわよ」
「ああっ、ありがとうございますぅうーーッ!!」

 両手で恭しく小冊子を受け取り、大事に自分のクラッチバッグの中に仕舞い込む。

「そろそろ会場に参りましょう。フィーリア様も貴女が来ると知って喜んでおいででしたよ」
「ほ、本当ですか?」
「直接ご挨拶したら分かるわ」
「早く行きましょ、アウローラ様」

 彼女……アウローラ・フロル・ブラースカ男爵令嬢は、元クラスメイトの令嬢四人に四方を囲まれるようにして披露宴会場へと入った。
しおりを挟む
2021/03/11 完結
感想 58

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

悪役令嬢に転生した私は破滅エンドを避けるべく、剣と魔法を極めたら全ての攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
前世で乙女ゲームが好きだった主人公は、悪役令嬢であるエリス・フォン・シュトラールとして転生してしまう。エリスは、ゲームのシナリオではヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢で、最終的には国外追放や処刑という悲惨な結末を迎える運命だった。 「そんな未来なんて絶対に嫌!」 そう決意したエリスは、破滅フラグを回避するために自らの運命を切り開くことを決意。社交界での陰謀や恋愛に巻き込まれないように、剣術と魔法の鍛錬に没頭することにした。元々の貴族の才能と転生者としての知識を活かし、エリスは驚異的な速度で成長。やがて「最強の剣士」兼「伝説の魔導士」としてその名を轟かせることに。 ところが、彼女が強くなればなるほど、ゲームの攻略対象である王子や騎士団長、天才魔導士、さらにはライバルキャラまで、なぜか次々と彼女に夢中になってしまう! 「えっ、こんなはずじゃなかったのに!?」 溺愛される悪役令嬢となったエリスの、恋と戦いに満ちた破滅回避(?)ファンタジーが今、始まる!

転生ガチャで悪役令嬢になりました

みおな
恋愛
 前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。 なんていうのが、一般的だと思うのだけど。  気がついたら、神様の前に立っていました。 神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。  初めて聞きました、そんなこと。 で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?

転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜

咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。 実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。 どうして貴方まで同じ世界に転生してるの? しかも王子ってどういうこと!? お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで! その愛はお断りしますから! ※更新が不定期です。 ※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。 ※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

処理中です...