上 下
53 / 71
本編

53話:もうすぐ第1王子の結婚式が始まります

しおりを挟む


 カリオンを通じ、ラシオスの側近ガロフには護衛を増やすように伝えた。どのタイミングで狙われるかは分からない。密かに毒味役をつけ、移動の際も必ず腕の立つ者を同伴させる等の対策が取られた。

 貴族学院にいる間は、常にヴァインの側でカラバスが見張りについている。エリルも交代で見張り役を買って出た。幸いヴァインには気に入られている。怖い男カラバスと睨み合うよりはマシ、といった程度ではあるが。

 このままラシオスを守り抜けばいい。
 ローガンとヴァインが帰国してしまえば、こんな風に警戒する日々も終わる。それはそれで寂しくなるかもしれない。ひやりとさせられることの方が多かったが、悪びれずに笑顔で声を掛けてくる彼は何故か憎めない。
 無表情の下で、そうエリルは思っていた。






「いよいよ明日ですね、結婚式」
「ええ」
「祝いの席では大人しくしているので、式を見学しても構いませんか」
「参列するローガン様に付いて会場に入られるのでしょう? 我々も止めはしませんよ」
「ありがとう」
「……?」

 改まった様子で申し出るヴァインに違和感を覚える。正式に招待されている客とその護衛だ。何もしないのなら会場入りを拒否する理由はない。
 というか、そんな権限はない。

「貴女も参加するんですか」
「いえ、私はただのメイドですので」
「着飾った姿を見てみたかったんですが」
「会場に入れたとしても給仕係ですよ」
「……そうですか、残念です」

 王宮には行く予定がある。主人であるフィーリアに付いて身支度を手伝うためだ。その後で式場やパーティー会場には密かに潜入するつもりだが、警戒対象にわざわざ言うこともない。
 言葉を濁して答えれば、寂しそうな反応が返ってきた。

 ヴァインが何を考えているのか、エリルには分からない。ただ、今の言葉だけは嘘ではないように思えた。







 翌日。
 スパルジア侯爵家は早朝から慌ただしかった。
 侯爵夫妻とフィーリアは今日の午後から行われる結婚式とその後の披露宴、そして夜会に出席する。それぞれのパーティーに応じたドレスやアクセサリー、靴、化粧道具などを予備も含めて馬車に積み込んでいく。

 フィーリア専属メイドのエリルとミントも供をする。王宮の一室を借り、そこで着替えなどの身支度をするのだ。化粧や髪のセットは手先が器用なミントの担当である。

「それも化粧道具?」

 道具箱とは別に、小瓶や布きれを小さなポーチに詰めているところを見掛け、エリルが尋ねた。

「ちょっと違うけど、必要なものよ~」
「ふうん?」

 アイデルベルド王国の情報を集めた後、ミントは密かに動いていた。何をしているのかは知らないが、彼女もフィーリアのために動いているのは確か。エリルはそれ以上尋ねることはしなかった。

 全ての支度を終えてから、エリルたちも王宮行きの馬車へと乗り込んだ。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます

富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。 5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。 15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。 初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。 よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

完結一話追加:囲われサブリナは、今日も幸せ

ジュレヌク
恋愛
 サブリナは、ちょっと人とは違う特技のある公爵令嬢。その特技のせいで、屋敷から一歩も出ず、限られた人とのみ接する読書漬け生活。  一方のクリストファーは、望まれずに産まれた第五王子。愛を知らずに育った彼は、傍若無人が服を着て歩くようなクズ。しかも、人間をサブリナかサブリナ以外かに分けるサイコパスだ。  そんな二人が出会い、愛を知り、婚約破棄ごっこを老執事と繰り返す婚約者に驚いたり、推理を働かせて事件を解決したり、ちょっと仲間も増やしたりしつつ、幸せな囲い囲われ生活に辿り着くまでのお話。 なろうには、短編として掲載していましたが、少し長いので三話に分けさせて頂きました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました

相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。 ――男らしい? ゴリラ? クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。 デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。

処理中です...