47 / 71
本編
47話:まだ全てが解決したわけではありませんでした
しおりを挟む手合わせ以降、二人は意気投合した。
これまで男を側に寄せ付けなかったローガンだが、ラシオスだけは受け入れるようになった。剣を交えたことで心理的にも距離が近くなったのだろう。
恋敵であることは変わらない。
勝敗自体は微妙なところだったので、結局どちらが優位に立つかは決まらなかった。そもそも選ぶのはフィーリアだ。今回は、ただ相手が同じ土俵に立つことを互いに認め合うだけに留まった。
しかし、ランチタイムに変化が現れた。
フィーリアがラシオスと共に過ごすと自ら言い出したのだ。これにはローガンもショックを隠せなかった。やはり選ばれたのは婚約者かと嘆いた。
実際は、カリオンがラシオスと一緒に昼食をとっていると聞いたフィーリアがその輪に加わりたいと申し出ただけだった。そこに妹のオウレリアも呼び、中庭の片隅にある東屋で四人で仲良くランチを食べることになった。
フィーリアが抜けてからも、エマリナたちはローガンを監視しつつ一緒に昼休みを過ごしている。傍目からみれば、可愛らしい令嬢たちに囲まれたローガンのほうが勝ち組に思えるだろう。
「ローガン様、もう諦めたほうがよろしいかと」
「いや、まだ俺は返事を貰っておらん!」
「フィーリア様、忘れてないかしら」
「フィーリア様だもの、忘れてるかもね」
「色々ありましたからね」
そして、ブリムンド王国第一王子ルキウスと婚約者シャーロットの結婚式が一週間後に迫る中、近隣諸国から続々と招待客が訪れた。それぞれ王宮内の客室や離宮に滞在することになる。
ラシオスとフィーリアも、貴族学院が休みの日には王宮に集まり、式典に参加する際の作法をおさらいしていた。
「フィーリア、手を」
「……はい」
実際の会場での動線を確認するため、案内役の後ろについて二人で歩く。
エスコートされるのは初めてではないが、これまでのように何も考えず無心でいられた時とは違う。軽く手を重ねるだけで指先が震え、鼓動が速くなる。自身の心情の変化に戸惑い、フィーリアは練習に身が入らなかった。
「お嬢様、最近浮かない表情ね~」
「ローガン様へのお返事は保留したままですし、手合わせ以降ラシオス様を意識し始めたみたいです」
「おっっっそ! 今頃???」
「まあ、今まではそれどころじゃありませんでしたから」
窓辺にある椅子に座って物憂げに空を眺めるフィーリアを見守りながら、二人の専属メイドはひそひそと小声で会話していた。
もちろん仕事をしながらだ。
フィーリアはまだ学生なので、結婚式前の夜会には呼ばれてはいないが、その後の式典には全て参加が義務付けられている。そこで身に付ける数々のドレスに合わせた宝飾品や小物を並べて磨いているのだ。
「明日からは旦那様も奥様も毎晩夜会に出られるんですって~。こんな時でもなければ会う機会がない方々も多いもの。挨拶回りだけで大変よね~」
「王族や貴族の方はそれがお仕事だもの」
連日開かれる宴で親睦を深めるのも大事な公務である。近隣諸国のお偉方とも交流があるスパルジア侯爵家の当主夫妻は持て成す側として特に忙しくなる。
宝石の表面を柔らかな布で磨きながら、ミントの話にエリルは相槌を打った。
その時、不意にあることを思い出した。
『現在王宮に滞在している他国の人間は我らアイデルベルド王国のみ。もし何かあれば真っ先に疑われてしまいますからね』
「……あっ……」
「エリル?」
急に青褪めた同僚の顔をミントが覗き込んだ。
「どうしたの~? 宝石に傷でも付いてた?」
「ち、違う、けど」
話そうにも、同じ室内にはフィーリアがいる。エリルはその場では何も言うことが出来ず、ただ上辺を取り繕って作業を続けた。
10
2021/03/11 完結
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。


悪役令嬢に転生した私は破滅エンドを避けるべく、剣と魔法を極めたら全ての攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
前世で乙女ゲームが好きだった主人公は、悪役令嬢であるエリス・フォン・シュトラールとして転生してしまう。エリスは、ゲームのシナリオではヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢で、最終的には国外追放や処刑という悲惨な結末を迎える運命だった。
「そんな未来なんて絶対に嫌!」
そう決意したエリスは、破滅フラグを回避するために自らの運命を切り開くことを決意。社交界での陰謀や恋愛に巻き込まれないように、剣術と魔法の鍛錬に没頭することにした。元々の貴族の才能と転生者としての知識を活かし、エリスは驚異的な速度で成長。やがて「最強の剣士」兼「伝説の魔導士」としてその名を轟かせることに。
ところが、彼女が強くなればなるほど、ゲームの攻略対象である王子や騎士団長、天才魔導士、さらにはライバルキャラまで、なぜか次々と彼女に夢中になってしまう!
「えっ、こんなはずじゃなかったのに!?」
溺愛される悪役令嬢となったエリスの、恋と戦いに満ちた破滅回避(?)ファンタジーが今、始まる!
転生ガチャで悪役令嬢になりました
みおな
恋愛
前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。
なんていうのが、一般的だと思うのだけど。
気がついたら、神様の前に立っていました。
神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。
初めて聞きました、そんなこと。
で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?

転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜
咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。
実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。
どうして貴方まで同じ世界に転生してるの?
しかも王子ってどういうこと!?
お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで!
その愛はお断りしますから!
※更新が不定期です。
※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。
※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様
さくたろう
恋愛
役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。
ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。
恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。
※小説家になろう様にも掲載しています
いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる