46 / 71
本編
46話:殿方同士の話し合いは剣を交えて行うそうです 4
しおりを挟むブリムンド王国第二王子ラシオスとアイデルベルド王国王太子ローガンの手合わせは無事に終わった。
二人の一騎打ちではあったが、これは剣技の授業である。観覧客も集まっており、このまま解散出来るような雰囲気ではない。
かといって、全校生徒から見られた状態で通常の授業をするわけにもいかず、担当の教師は頭を悩ませた。
「先生、せっかくですからここは熟練者同士を戦わせて見学しましょう」
そう提案したのはカリオンだ。
彼も観覧席にいて一部始終を見守っていたのだ。隣には彼の婚約者であり、フィーリアの妹であるオウレリアもいる。
「しかし、熟練者と言っても……」
「ちょうど僕の護衛が対戦相手を連れて来ました。彼らを戦わせて、殿下たちの争いを有耶無耶にしてしまいましょう」
カリオンが指差した先では、カラバスが逃げたヴァインを取っ捕まえて引き擦っていた。
結果的に丸く収まったとはいえ、王子同士が剣を向け合ったのは事実。ここで解散したら、その話だけが外に広がってしまう。それより面白い見世物で皆の記憶を上書きしようというのだ。
「先生、お願い」
「わ、分かった、許可します」
小首を傾げて頼み込んでくるカリオンには勝てず、教師は部外者の闘技場での試合を認めた。
カラバスに首根っこを掴まれたまま、ヴァインは闘技場の中央まで引っ張り出された。そこでようやく解放されたが、周りは既に次の試合を待ち望み、二人に熱い視線を送っている。逃げ出せる雰囲気ではない。
「今度は私たちが手合わせを?」
「貴方が要らん真似をするからですよ。我が主人は酷くご立腹です」
「ここは仲良く真面目に戦うフリ、というのは」
「私も主人と同意見です。容赦はしません」
言いながら、カラバスは腰に佩いた剣をすらりと抜いた。完全に目が据わっている。
これは生徒同士の模擬試合とは違う。故に刃を潰した鉄剣や木剣などではなく、真剣を用いて戦う。
「私、いま短剣しか持っていないのですが」
「知りません。それで戦ってください」
「めちゃくちゃ怒ってますね」
「……貴方のせいで、主人からの命令を遂行できなくなるところでしたから」
あの時、反射光でラシオスの動きを止められたのは完全に予想外だった。離れた場所でヴァインを押さえておけば済むと思った自分の考えの甘さを、カラバスは責めているのだ。
「これは私の個人的な憂さ晴らしでもあります。観覧席の皆様が満足するまで付き合ってもらいますよ」
「こんな時ばかり情熱的になられても嬉しくないですけどね、っと」
笑みを浮かべたまま、ヴァインは短剣をカラバスに向かって投げた。当然それは避けられ、地面に突き刺さる。
丸腰になったヴァインは高く跳躍して距離を置き、闘技場の片隅に立て掛けてあった剣を手に取った。刃のない鉄剣である。
「こんなものでも無いよりはマシですからね」
「いいでしょう。掛かってきなさい」
互いに同じ長さの得物を手にして、笑いながら斬り掛かっていく。その光景を眺め、エリルは深く長い溜め息をついた。
カラバスとヴァインが観客を湧かせている間に、王子二人は教師陣によって控え室に連れ戻されていた。念のため医務室から呼ばれていた医師に怪我や打ち身がないか全身隈なくチェックされる。
そこへフィーリアが駆け付けた。ノックするのも忘れて扉を開け、控え室へと飛び込む。
「フィーリア!」
「フィーリア嬢」
二人は診察のために防具を外し、シャツも脱いだ状態だ。構わずフィーリアはずかずかと足を進め、その剣幕にラシオスたちが慄き、一歩下がった。
「お怪我は!?」
「な、ない」
「俺も」
二人の返答を聞いてから、フィーリアは側にいた医師に厳しい視線を向けた。医師は思わず姿勢を正し、頭を下げる。
「お、御二方とも無傷です。ご安心を」
それを聞いてフィーリアは胸を撫で下ろした。
そして、目の前の二人の男性が上半身裸であることにようやく気が付いて悲鳴をあげた。
11
2021/03/11 完結
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

悪役令嬢に転生した私は破滅エンドを避けるべく、剣と魔法を極めたら全ての攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
前世で乙女ゲームが好きだった主人公は、悪役令嬢であるエリス・フォン・シュトラールとして転生してしまう。エリスは、ゲームのシナリオではヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢で、最終的には国外追放や処刑という悲惨な結末を迎える運命だった。
「そんな未来なんて絶対に嫌!」
そう決意したエリスは、破滅フラグを回避するために自らの運命を切り開くことを決意。社交界での陰謀や恋愛に巻き込まれないように、剣術と魔法の鍛錬に没頭することにした。元々の貴族の才能と転生者としての知識を活かし、エリスは驚異的な速度で成長。やがて「最強の剣士」兼「伝説の魔導士」としてその名を轟かせることに。
ところが、彼女が強くなればなるほど、ゲームの攻略対象である王子や騎士団長、天才魔導士、さらにはライバルキャラまで、なぜか次々と彼女に夢中になってしまう!
「えっ、こんなはずじゃなかったのに!?」
溺愛される悪役令嬢となったエリスの、恋と戦いに満ちた破滅回避(?)ファンタジーが今、始まる!
転生ガチャで悪役令嬢になりました
みおな
恋愛
前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。
なんていうのが、一般的だと思うのだけど。
気がついたら、神様の前に立っていました。
神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。
初めて聞きました、そんなこと。
で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?

転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜
咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。
実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。
どうして貴方まで同じ世界に転生してるの?
しかも王子ってどういうこと!?
お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで!
その愛はお断りしますから!
※更新が不定期です。
※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。
※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様
さくたろう
恋愛
役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。
ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。
恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。
※小説家になろう様にも掲載しています
いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる