【完結】うちのお嬢様が婚約者の第2王子から溺愛されているのに真実の愛を求めて婚約破棄しそうです。

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
44 / 71
本編

44話:殿方同士の話し合いは剣を交えて行うそうです 2

しおりを挟む


 突然手合わせを申し込まれたにも関わらず、ローガンは二つ返事で了承した。それは彼が自分の腕に自信があるという証拠ではないか。

 対するラシオスは、つい先日まで意気消沈して衰弱していた。現在は回復しているが、まだ万全とは言い難い。文武両道と周りから評されてはいるが、対するローガンの実力は全くの未知数。勝てる保証はない。

「御二方とも、中央へ」

 審判役の教師は緊張で動きが硬い。
 自国と隣国の王子同士の手合わせだ。授業の一環とはいえ、二人は明らかに敵対心を抱いている。下手をすればどちらか、または両方が怪我をするだろう。
 本来ならば止めるべき立場だが、王子たちの希望を突っ撥ねる権限も度胸もなく、ただ無事に手合わせが終わることを祈るのみ。

 両者は木剣を構え、刃先を軽く重ねた状態で闘技場の中央で向かい合った。




「始め!!」




 審判役の手が振り下ろされた瞬間、二人の王子は間合いを取るために一旦後ろへと飛んだ。身体の前に木剣を構えたまま、円を描くように距離を保ちつつ、闘技場の中央で睨み合った。

「フィーリアに気安く近付かないでもらえますか。彼女は僕の婚約者です」
「うん? その割に、仲睦まじい様子は見られなかったようだが?」
「……」

 巻き添えを食わないように、審判役の教師は剣先が届かない位置まで下がっている。

 互いの耳にしか届かないよう声を抑えて言葉を交わす。教室や他の場所では誰に聞かれるか分からず、何も言えないままだった。この闘技場では歓声が飛び交い、王子二人の会話が観覧席まで聞こえることはない。

 皮肉なことに、この状況にならねばラシオスは自分の本心を表に出すことが出来なかった。

「フィーリア嬢との婚約は僅か二歳の頃に成立したと聞いた。親同士が決めた、謂わば政略結婚。果たして、それが幸せだと言えるか?」
「……」

 じりじりと間合いを詰め、再び剣先が触れ合うくらいの距離まで接近する。カツン、と木剣同士が当たる度に観覧席から歓声が上がった。

「フィーリア嬢はラシオス殿を避けていた。形だけの婚約者を疎んでいたのでは?」

 そうかもしれない、と思うだけでラシオスの心が痛む。ローガンの言葉は全て事実を指摘している。だからこそラシオスには効く。

「それなのにラシオス殿はこうして俺に勝負を挑んできた。婚約者としての体面を守るためか!」
「……そう思われても仕方ありません。僕は、いつも彼女の前では自分を押し殺していた。本当の姿を見せて嫌われるのが怖かったから」

 ラシオスの視線は相対するローガンを通り越し、後ろの観覧席に座るフィーリアの姿を捉えた。祈るように胸元で両手を組んでいる。彼女が無事を願うのはローガンか、それともラシオスか。
 愛しい婚約者の姿を見て、ラシオスは勝負に出た。

「はっ!」

 木剣を掲げ、上段から思い切り振り下ろす。
 しかし、動きは読まれていた。
 ローガンはすぐに自分の剣を横に構え、その一撃を受けた。そのままラシオスの剣先を斜めにやり過ごしてから、自分の剣を横に薙ぐ。だが、これは後ろに飛び退いて事なきを得た。

 ローガンは重い木剣を片手で軽々と振り回している。ラシオスより僅かに背が高く体格も良い。腕力や持久力は上だ。
 対するラシオスは両手で剣を持つのがやっと。元々痩せ型で腕力はない。勝負が長引けば勝ち目はない。

「そこまで想っておきながら何故こんな回りくどいことを!」
「僕だって分かりませんよ! 素直になれるものなら、とっくになってます!!」

 激しく剣を交えながら、荒い呼吸の合間に言葉を交わす。ローガンがラシオスとこんなに話をしたのは今が初めてではないだろうか。

「……本人に言えるうちが華だぞ、ラシオス殿」
「え?」

 深く前に踏み込み、ローガンは一気に間合いを詰めた。そして、ラシオスの耳元に口を寄せる。

「その程度の想いなら、ここで俺に負けて終わりにしろ」

 いつもより低い声でそう囁き、ローガンは木剣を構え直した。
しおりを挟む
2021/03/11 完結
感想 58

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜

咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。 実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。 どうして貴方まで同じ世界に転生してるの? しかも王子ってどういうこと!? お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで! その愛はお断りしますから! ※更新が不定期です。 ※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。 ※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

処理中です...