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本編

43話:殿方同士の話し合いは剣を交えて行うそうです 1

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 ラシオスがローガンに勝負を挑んだ。

 どちらがフィーリアに相応しいかを決するつもりなのだ。あくまで剣技の授業の一環であり、国同士の事情は関係ない。だが、もしどちらかが怪我を負えばどう転ぶかは分からない。

 問題を起こしたくない教師陣により、普段の手合わせ時より防具が追加された。

 使用する得物は刃のない木剣だが、重量は金属製の剣と変わらない。思い切り叩きつけられれば、良くて打撲、悪くて骨が折れるだろう。
 額には鉢金、腕には籠手、更に胴体には革でなく金属製の胸当て。これだけでは不安だからと周囲が全身を甲冑で固めさせようとしてくるので、二人は揃って辞退した。

「大袈裟な! ただの手合わせだというのに」
「自信が有るようですね。僕は貴方が甲冑を身に付けても構いませんよ」
「それはどういう意味かな、ラシオス殿」
「さあ? どうでしょうね、ローガン殿」

 二人とも互いの存在を良く思っていない。控え室でそれぞれ準備を進めながら、剣を交える前に言葉でのやり合いか始まった。


 貴族学院の校舎に併設された闘技場。
 ここには何故か全校生徒が集まっていた。観覧席は全て埋まり、これから始まる対決を今か今かと待っている。

 これだけ周りが熱狂していれば、学院内に潜んでいるヴァインたちも当然気付く。

「おやおや。殿下がこんな勝負を受けるとは」

 闘技場を囲む高い外壁の上にしゃがみ、陽射しを手で遮りながらヴァインは笑った。主人が負ける可能性など微塵もないといった様子だ。
 カラバスは少し離れた場所に立ち、闘技場の中央を見下ろしつつ、ヴァインも視界に収めていた。

「勝負に手出しはさせませんよ」
「おや、信用ないですね。ここのところ毎日顔を合わせているんですから、そろそろ貴方とも親交が深まったかなーと思っていたのですが」
「……有り得ません」
「つれないですね、ブリエンド王国の人はみんなこう・・なんでしょうか」

 軽口を叩きながら、ヴァインの視線は対面の外壁に座るエリルへと向けられた。

 メイド服のままでは風になびいて目立ってしまう。質素な服に着替え、人目につかぬように気配を消し、エリルは闘技場を見下ろしていた。

 眼下に広がる闘技場には二人の王子が立っている。

「……なんでこうなったんでしょう?」

 一歩退いて内に籠っていたラシオスをけしかけたのはエリルだが、それがここまでの事態になるとは流石に予想していなかった。彼がフィーリアの気遣いにきちんと応え、気持ちを素直に伝えてくれさえすれば丸く収まると思っていた。

 しかし、そんな単純な話ではない。

 アイデルベルド王国の王太子がブリムンド王国の第二王子の婚約者に対し、公の場でアプローチをかけた。求婚の事実は一部の者しか知らないが、ローガンがフィーリアに好意を抱いているのは学院中に知れ渡ってしまっている。

 身分や立場の問題で強くは言えなかったラシオスが、ローガンに一矢報いるための方法はただ一つ。手合わせを通じ、自分がフィーリアの正統な婚約者であると、周囲やローガンに知らしめること。

 エマリナがフィーリアに説いたように、これは男の意地と矜持プライドの問題である。エリルには理解しがたい話だ。

「勝てばいいって話でもなさそうですけど」

 ちらりと視線を向ければ、不敵に笑うヴァインの姿が目に入った。
 このような状況になったというのに全く動じていない。それは当事者のローガンも同じ。

「……ローガン様、めちゃくちゃ強かったりして」

 ラシオスが負けたらどうなるか。
 エリルは固唾を飲んで二人の姿を見守った。
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