14 / 71
本編
14話:第2王子と親しくなった切っ掛けがありました 2
しおりを挟む「やはり、君は只者ではないね」
「…………」
表情はにこやかなままだが、ラシオスの声がやや低くなった。先ほどの珍妙な申し出は反応を見るためにワザとやったのだろうか。
そうエリルが警戒した時。
「君がいると隙がなくて、スパルジア家でフィーリアの私物が集められなくて困っているんだよ!」
「…………はい?」
心底困っているといった様子でラシオスが何度も首を横に振り、大袈裟に溜め息をついた。
「僕はフィーリアの私物が欲しい。結婚まであと何年もあるし、たまに会っても二人きりにはなれないし、触れ合うような機会もない。だから、その寂しさを埋めるためにも彼女の使用済みのありとあらゆる品が欲しいんだ!」
この時、ラシオスは十二歳。
整った容姿と優雅な物腰、滲み出る気品でメイド仲間の間では天使だと持て囃されていた。お嬢様のお相手として申し分無いお方であると誰もが思っている。さっきの言葉を耳にするまで、エリルもそのように彼を認識していた。
しかし違った。
ラシオスはおかしい。完璧な王子様であるにも関わらず、性癖を拗らせている。
「例えラシオス様の頼みでも、私の一存で侯爵家の品物をお渡しするわけには参りません」
高位貴族の屋敷で使われている茶器は非常に高価である。メイドが勝手に譲渡出来るものではない。
エリルは毅然とした態度で断った。
だが、それで退くほどラシオスは甘くなかった。
「侯爵家で使用されているカップと同じメーカーの同じ製品を同数用意した。それと入れ替えれば問題はないはずだ」
「え、こわ……」
過去に招かれた際に調べたのか、それとも侯爵家の出入りの商人から聞き出したのか。ラシオスはそれを把握しており、彼の従者(ずっと黙って後ろに控えていた)に持たせていた。
「それに、君は将来王宮で働きたいのだろう? 僕の頼みを聞いた方がいいんじゃないか?」
「ッ!」
これは立場を利用した脅しである。
フィーリアの使用済みカップを渡してしまえばこの場は収まるだろうが、それは主人を売るも同然の所業。
エリルは毅然とした態度で要求を突っ撥ねた。
「申し訳ございません、従えません」
「……そうか、とても残念だよ」
何か制裁があるかと身構えたが、ラシオスは何もせずに茶会の会場である談話室から出て行こうとした。
予想外のことに、今度はエリルが呼び止めた。
「あの、ラシオス様。罰などは」
「なぜ罰する必要がある。君は間違っていない。僕が無理を言っただけの話だ」
心底不思議そうにラシオスはそう応えた。
後ろに控えている従者も首がもげそうなほど頷いている。どうやら本当にそう思っているようだ。
「ただ、僕はフィーリアともっと親しくなりたい。時々話を聞かせてくれると嬉しいんだが」
「は、はい。それくらいでしたら」
こうして二人の奇妙な関係が始まった。
その一件以降、情報交換する仲となった。
好きな菓子。
好きな料理。
読んでいる本。
余暇の過ごし方。
差し障りのないフィーリアの情報をリアルタイムで知ることが出来て、ラシオスは大いに満足していた。
「仲が良い訳ではないんですよ。ラシオス様から利用されてるだけですからね」
「でもでも、王子様と一対一で話せるなんてスゴいことよ~? 私はちょっと畏れ多いかなあ」
他のメイドや使用人たちにラシオスの妙な性癖のことはバラしていない。腐っても王子である。悪い噂を吹聴することは不敬に当たるからだ。
故に、ミントは王子に一定の敬意を持っている。
「……知らない方が幸せなこともあるんですよ」
誰にも聞こえないような小さな声で、エリルはぽつりと呟いた。
10
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。
石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。
ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。
ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。
母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。
[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる