【完結】うちのお嬢様が婚約者の第2王子から溺愛されているのに真実の愛を求めて婚約破棄しそうです。

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
1 / 71
本編

1話:お嬢様は恋愛小説の影響で真実の愛を探そうとしております

しおりを挟む


 見掛けるだけで頬が熱くなる。
 声を耳にしただけで心臓が跳ねる。
 もし手が触れたら、それだけで死んでしまいそう。 
 愛しのお方のお姿を眺めているだけで幸せ。



「……はあ、なるほど。そうなるのね」
 
 文庫本を捲りながら頷いている少女がひとり。 
 彼女の名はフィーリア。ブリムンド王国スパルジア侯爵家の長女である。ゆるく波打つ長い金髪にオレンジの瞳。トレードマークは真っ赤なリボンと真っ赤なドレス。派手な色合いだが決して下品に見えることはなく、彼女自身の整った容姿を引き立てている。

 先程から彼女が読んでいるのは、巷で人気の恋愛小説である。側付きのメイドが巷で一番流行っている本を貸してくれたのだ。

 胸のときめき。
 気持ちの駆け引き。
 嫉妬と憎悪。
 先の見えない展開の数々。

 内容的にはよくある物語だが、そこには刺激があった。だからこそフィーリアは夢中になって読んでいるのだ。 
 
 彼女には婚約者がいる。
 僅か二歳の時に親同士が決めた。お相手は、ブリムンド王国の第二王子ラシオス。銀髪の似合う美少年で、品行方正、文武両道。同じ年齢のため貴族学院で毎日顔を合わせており、卒業後に結婚すると決まっている。

 第二王子との縁談は申し分ない。侯爵家は王家と縁続きになれるし、王家は有力な侯爵家を味方に出来る。

 もちろん、フィーリアはラシオスの事は嫌いではない。ただ、ときめきはない。物心つく前からの付き合いだ。新鮮味は全くなく、むしろ身内と言っても差し支えない。

 このままでは親の決めた相手と結婚する未来が待っているだけ。
 
「──決めたわ! わたくし、自分で結婚相手を探してみます!」
「は? なに言ってるんですかお嬢様。アタマ大丈夫ですか?」
 
 その発言に対し、即座に苦言を呈したのはメイドのエリルだ。
 フィーリアの側付きのひとりで、青味がかった黒髪を肩に付かない程度の長さで切り揃えている少女である。長年仕えているため幼馴染みのような関係だ。 
 
「お嬢様にはラシオス様がいらっしゃるでしょう」
「だって、わたくしもこういうロマンスを体験してみたいんですもの!」

 手にした文庫本のページを広げて見せ付けるフィーリア。しかし、エリルはそれをまともに見ることもなく手で制した。

「またミントから借りましたね? いいですかお嬢様。恋愛小説こんなものは全部作り話です。作者の妄想の産物です。モテない女性が現実から逃避するためだけに書かれた嘘八百の与太話です。いちいち真に受けないでください」
 
 現実的なエリルの言葉に、勢いを削がれて項垂れるフィーリア。そこに、畳まれた衣服を抱えたメイドが入ってきた。
 
「ただいま戻りました~……って、エリル! またお嬢様を虐めたでしょ!」 
「虐めてないわ、現実を教えただけよ」 
「それがダメなの! もうっ!」 
 
 メイドはまず衣服をクローゼット前のテーブルに置き、涙目のフィーリアの足元に膝をついた。
 
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「ミント……わたくしは恋をしてはいけないの?」
「そんなことありません! 恋は全ての女の子に与えられた特権ですもの!!」
 
 ミントと呼ばれたメイドは満面の笑みを浮かべ、力強く言い切った。エリルとは正反対の、ふわりとした赤毛と垂れ目がちの大きな瞳。可愛らしい容姿の少女である。

 彼女も側付きのひとり。 先程フィーリアが真剣に読み耽っていた恋愛小説は、このミントが貸し出したものだ。

「アンタがお嬢様に変なもの読ませるから!」
「変なものとはなによ、今これめっちゃ流行ってるんだからね? 女の子の必読書みたいなものよ?」 
「そんなものより新聞を読んだ方が為になるわ!」
 
 恋愛脳と現実的なメイドの対立を尻目に、フィーリアはまだ真面目に考えていた。

 自分の人生、このままでいいのだろうか。どこかに運命の人が待っているんじゃないか、と。
 そう思ったら、迷ってる時間が勿体無い気がした。

 
「添い遂げる相手くらい自分で決めたいわ」 

 
 フィーリア・パラス・スパルジア、十五歳。 
 恋愛結婚がしたい。
 ただそれだけの目標に向かって行動を開始した。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

婚約破棄、ありがとうございます

奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。

婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました

相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。 ――男らしい? ゴリラ? クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。 デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

処理中です...