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34話・抜き打ち本性チェック
しおりを挟む騎士団と合流したリオン様は道案内としてアルド様とダナさん、あと捕虜にした男たちを連れて隣国へと出立致しました。
デュモン様が同行を強く希望するも、背中の傷が開きかけているため医師とグレース様に強く止められて断念したようです。
リオン様の「リジーニ伯爵領は我が国の一部。放置できるか」という言葉を聞き、デュモン様はようやく引き下がりました。
「お嬢、すみません。オレがもっとうまく立ち回れば婚約破棄なんてことには」
「あなたが気にする必要はないわ。アルド様の女癖の悪さは噂で聞いてたもの。結婚を機にあたくし一筋になっていただければ過去の行いについては目を瞑りますけど、流石に堂々と愛人を紹介されるとは予想外でしたわ!」
アルド様は社交的で奔放な方で、弟のリオン様とは真逆の性格と言えるでしょう。
「あたくしの分まであなたが怒ってくれたもの。もういいわ」
あれほどまでにこだわっていた婚約を破棄したばかりだというのに、グレース様はどこか吹っ切れた様子です。
「さあさあ、いつまでも怪我人を起こしていてはいけませんよ。元気な方は別のお部屋に移りましょうね」
老メイドもとい先代侯爵夫人に促され、私たちは二階の客室へと戻りました。グレース様はデュモン様のそばについていたいということで、階下の部屋に残しております。
「何とかなりそうで良かったわ」
「そうね、一時はどうなることかと」
客室に戻り、三人だけになった途端にコニスとアリエラがソファーに崩れ落ちました。彼女たちは武装した男たち相手に箒や銀器で果敢に立ち向かい、身を守ったのです。貴族の令嬢はあのような場面で前に出ることなどまずありません。
「ありがとう。あなたたちがいてくれて、とても心強かったわ」
改めて御礼の言葉を伝えると、二人は顔を見合わせて肩をすくめました。
「フラウが頑張ってるんだもん。わたしたちだってやる時はやるのよ」
「そうそう。フラウだって先代ネレイデット侯爵夫人をお助けしたじゃない。てゆーか、肩だいじょうぶ?」
そういえば、助けた際に左肩を打たれていたのでした。思い出した途端、なんだか痛くなってきたような気がします。
「わ、忘れてましたわ……!」
背中側にあるドレスの留め具を外し、ブラウスのボタンをゆるめて肩を出すと、二人が息を飲んだのが分かりました。そんなに酷いことになっているのかしら。
「うわあ、腫れてる。血は出てないけど」
「痛々しいわね。冷やしたほうがいいわ」
そこへワゴンを押した先代侯爵夫人とルウがやってきました。お茶の支度をしてくれていたのね。
腫れた私の肩を見て、驚きの表情で固まっております。
「ああ、わたしを助けるために打たれた時のものですよね。気付けなくてごめんなさい。すぐ医師を呼びますね」
「あっ、あたしが行きますよ! ついでにおじいちゃんから氷を貰ってきますぅ」
すぐさまルウが階下に降りていきました。おじいちゃんとは老コック……先代侯爵様のことです。
先代侯爵夫人はそばに寄り、いたわるようにそっと私の手を取ります。
「あなたはわたしの正体を知らずとも身を挺して守ってくれましたね。庭師の時もそう。普段からお手伝いを申し出てくれていたし、主人とふたりで感心しておりましたのよ」
「そんな……私など」
「いいえ。わたしがメイドに扮してお客様をおもてなしするのは単なる趣味ですが、お客人の人柄を見るためでもあります。身分の高い者には誰しも丁寧に接しますが、使用人相手にはついつい本性が出ますから」
メイドは趣味でしたのね。つまり、別邸に招かれた客はみな試されていたのでしょう。
「ちなみに、グレース嬢も以前アルドによって連れて来られているのですよ。あの子は高慢に見えますが、庇護下にある者にはとても情に厚く優しい性分をしております。とても良い子だわ」
グレース様は先代侯爵夫人の抜き打ち本性チェックをクリアしておりましたのね。その後ネタばらしをされたのでしょう。
私は半月以上も別邸でお世話になっておりましたのに、ずっと知らないままでしたわ。本来ならばリオン様が教えてくださるべきだったのではないかしら。彼のことですから、きっと忘れているのだわ。
「リオンはアルドと違って不器用ですから貴女に迷惑をかけるでしょうけど、どうか見捨てないでやってください」
「え、ええ……」
しっかりと手を握られ、直接頼まれてしまいました。そんなこと言われたら断れません。
医師に診ていただき、ルウが持ってきてくれた氷で冷やします。肩の腫れは数日で引くだろうとの見立てに安堵しました。
「フラウの肩がこんなになってたの、リオン様が知ったらめちゃくちゃ怒りそうだよね~」
「反乱軍が血祭りに上げられてたかも」
リオン様が何も知らないうちに出立したことで、反乱軍は命拾いをしたのかもしれません。
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