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30話・私兵の正体
しおりを挟む「どうしてあたくしに……いえ、お父様に相談しなかったの、デュモン! 反乱軍だかなんだか知らないけど、きっと何とか対処できるわよ!」
「お嬢……」
グレース様が詰め寄ります。彼女は怒っているのではなく、家臣に頼られなかった自分に憤りを感じているのでしょう。
「オレの父が止めたんです。自領の問題で主家に迷惑を掛けてはならぬ、と。しかし、反乱軍の要求は日を追うごとに増え、個人でどうにかできる状況ではなくなったんです」
「……だから、カレイラ侯爵家に請求がいかない形で金銀を買い集め、反乱軍に渡していた、と」
自領の民を守るため、表立った行動はできなかったのでしょう。反乱軍に気取られず、且つ有力者の目に留まるようにと考えた末の苦肉の策だったようです。主家であるカレイラ侯爵家だけでなくネレイデット侯爵家まで巻き込めばどうにかなると期待していたのかもしれません。
「お嬢とアルド様は婚約者ですから両家はいずれ縁続きとなります。だから巻き込んだんですが、まさかそのせいでアルド様が姿を消すとは予想外でした」
デュモン様が執拗にアルド様を探していた理由はこのためだったのですね。不可解な請求書の謎も解けました。ついでにアルド様が出奔した理由も判明しましたが、まだ何も解決しておりません。リジーニ伯爵家の領民が人質に取られたままなのです。今後、活動資金の提供が滞ればどうなってしまうのか、想像しただけで恐ろしくなりました。
「こうしてはいられないわ。デュモン! お父様に一切合切お話して手を打つわよ!」
立ち尽くすデュモン様の腕をグレース様が引っ張ります。普段は高飛車で偉そうですが、家臣のために動く度量はあるようです。
しかし。
「今さら侯爵サマに告げ口されちゃ困るんだよ」
「ホントだよ。見張ってて正解だったなァ」
周りにいた十数人の武装した男たちが一斉に腰の剣を抜きました。全員カレイラ侯爵家の私兵だと思い込んでおりましたが、まさか反乱軍側の人間に入れ替わっていたとは。
「きゃああ!」
「お嬢っ!」
なんと、グレース様が彼らのうちの一人に捕らわれてしまいました。咄嗟にデュモン様が助けようとしますが、人質に取られたグレース様に剣が突きつけられ、動きを封じられました。
「おまえたち、まさかずっと私兵のふりをしてオレを監視していたのか」
「やっと気付いたか。貴族の口約束なんか信じられねえからな。おまえが妙なマネしないように潜り込んで見張らせてもらったぜ」
「くっ……」
どうやらデュモン様も知らなかった様子。部下だと思って同行させていた者たちが憎むべき反乱軍に入れ替わっていたのです。自分を見張るためだと知り、悔しさで歯噛みしております。
彼らのうち数人が別邸の玄関へと向かいました。玄関前にはコニスとアリエラ、ルウと老メイドがおります。
まさか彼女たちまで人質に取るつもり?
「どっかの高位貴族の末娘じゃあるまいし、易々と捕まるわけないでしょ!」
「こんなこともあろうかと護身術を習っておいて良かったわ」
剣を持った男たちを怖がるどころか、嬉々として立ち向かうつもり満々です。コニスはその辺にあった箒を、アリエラは銀器を手にして抗う姿勢を見せました。
待って。
銀器で戦う護身術って何?
普段から持ち歩いてるの?
引き合いに出されたグレース様が向こうで何やら喚いておりますが、正しい令嬢の姿は間違いなく彼女です。
思わぬ反撃に怯んだ男たちがやや後退しました。でも、得物を持ち、護身術を身に付けているとは言え彼女たちは非力な貴族令嬢。剣を持った男たちとやり合って勝てるはずがありません。距離を詰められたらお終いです。
「リオン様、なんとかして下さい」
「ああ。フラウ嬢は下がっているといい」
リオン様は腰の剣をすらりと抜き、周囲の男たちを蹴散らし始めました。その隙にコニスたちの元へ向かいます。
「こうなれば戦うしかないぞ、デュモン!」
「くそっ、分かったよ!」
ダウロさんとデュモン様も剣を抜き、群がる男たちと距離を取って構えました。
「お嬢様がどうなってもいいのかァ?」
「無礼者! 汚い手で触らないで!」
「お嬢……ッ!」
グレース様の首元には錆びた短剣が当てられております。あんなもので傷を負えば痕が残ってしまいますわ!
なんとか助け出したいのに、他の男たちが周りを囲んでいて隙がありません。全員の視線がグレース様がいる庭の中央へと集まっております。
ふと、視界の端に何か動くものが。悟られぬように目線だけそちらに向けると、男たちの一人がこっそり背後から近付いてくるところでした。グレース様に注目を集めている隙をつき、更に人質を取るつもりでしょうか。
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