26 / 36
26話・高慢令嬢v.s.気弱令嬢
しおりを挟む休日の昼下がり。
王都郊外に建つネレイデット侯爵家の別邸にグレース様が乗り込んできました。十数人の武装した男たちが庭に散り、別邸を取り囲んでおります。
居留守を使えば建物内に侵入してくる恐れがあるため、私はすぐに表に出ました。
およそ半月ぶりにグレース様の姿を見ましたが、相変わらず派手なドレスを身に纏っていらっしゃいます。つり目がちな金の瞳、きつく巻かれた金の髪。胸元を大きく開けた大胆なドレス、大粒の宝石をあしらった装飾品をこれでもかと身に付けております。まさに『歩く身代金』状態ですわね。
「ネレイデット侯爵家の別邸で花嫁修業ですってぇ? 捨てられるのを恐れて居座り続けるなんて、恥知らずもここまで来ると滑稽ですわ!」
「は?」
開口一番、グレース様の認識のズレに思わず素で返してしまいました。
あちらからすれば、アルド様出奔の影響でリオン様の婚約者の座が脅かされると焦った私が無理やり別邸に居座っていると思っているのでしょう。
実際は私から婚約解消を申し出た際、リオン様によって監禁されただけなのですけれども。
「国内をどれだけ探してもアルド様は見つかりませんし、こうなれば結婚相手はリオン様でも構いませんわ! フラウはさっさと荷物をまとめて実家に戻りなさい!」
やはり、グレース様はリオン様に乗り換える気満々です。相手が変わっても構わないのでしょうか。高位貴族ともなれば、個人の気持ちより家同士の繋がりを優先させるものなのかもしれません。
私が何も答えず黙っていると、グレース様は眉間にシワを寄せて不快感を露わにしました。両腕を組み、ふんぞり返った姿勢で更に言葉を続けます。
「自分の立場が分かっていないのかしら? ここはアンタのような弱小貴族が居ていいような場所ではないわ! さっさと消えなさい!」
高圧的な物言いに腹を立てたのでしょう。私の後ろにいたコニスが食ってかかろうとしましたが止めました。相手は腐っても侯爵家令嬢です。弱小貴族が手を出せば最悪家ごと取り潰されてしまいます。二人には何があっても動かぬようにと改めて伝えました。
カレイラ侯爵家の手の者たちに囲まれた中、私たちは本当に無力な存在。それでも、弱いなりに武器はあります。
「……あんまりですわ、グレース様」
はらりと涙をこぼす私を見て、周囲を取り囲んでいた男たちにどよめきが起こりました。彼らの反応を見ながら、更に続けます。
「先触れもなく突然訪ねてきた挙句『出て行け』だなんて。私はただ、ひっそり花嫁修業をしていただけですのに」
さめざめと泣く私の姿はさぞ儚げに見えることでしょう。
ふんぞり返って命令口調で怒鳴りつけるグレース様と、涙ながらに訴える私。傍目からはどちらが悪者に見えるかしら。
この構図を見せたい相手は彼らではなく、当事者の一人なのですけれども。
「フラウ嬢を泣かせた奴はどこのどいつだ」
地を這うような低い声が庭園に響き渡りました。どこから声が聞こえてくるのか分からず、私とコニスたち以外はキョロキョロと辺りを見回しております。
「う、上だ!」
「誰だアレは!」
男たちの視線が一点に集まりました。そこは先ほどまで私たちがいた二階の客室の窓。いつの間にか室内に入り込み、窓を開け放って庭でのやり取りを観察していたようです。
「り、リオン様!? 何故ここに」
グレース様が狼狽えております。リオン様不在の間に私を追い出すつもりで乗り込んできたのですから、驚くのも無理はないでしょう。
「今日は非番だ」
「そんな、シフト表には確かに出勤と……」
騎士団はシフト制勤務だそうで、代わりの者さえ用意すれば変更は容易いのだとか。カレイラ侯爵家が探りを入れていると知り、リオン様はここ数日お仕事を休んで待機していたのです。
「翌日に来るかと待ち構えていたが、まさか週末まで来ないとはな」
デュモン様と対面し、私が別邸にいると知られたのが三日前のこと。その日の夜にはリオン様に事情を説明しておりました。いつ襲撃されても良いように、すぐさま騎士団に使いを出して休みをもぎ取ってきたのです。
「だ、だって平日は学院に通わなきゃならないし、暗くなってからの外出はお父様から禁止されてるんだもの。お休みの日でなければ自由に動けませんわ!」
グレース様はド派手な見た目にそぐわず、随分と根が真面目な御方のようです。
0
《 騎士団長と貴族の少年の恋 》
侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい
《 親友同士の依存から始まる関係 》
君を繋ぎとめるためのただひとつの方法
《 異世界最強魔法使い総受 》
魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話
《 わんこ営業マン×メガネ敬語総務 》
営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい
《 ダンジョン探索で深まる関係 》
凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
お気に入りに追加
682
あなたにおすすめの小説
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

お姉様に恋した、私の婚約者。5日間部屋に篭っていたら500年が経過していました。
ごろごろみかん。
恋愛
「……すまない。彼女が、私の【運命】なんだ」
──フェリシアの婚約者の【運命】は、彼女ではなかった。
「あなたも知っている通り、彼女は病弱だ。彼女に王妃は務まらない。だから、フェリシア。あなたが、彼女を支えてあげて欲しいんだ。あなたは王妃として、あなたの姉……第二妃となる彼女を、助けてあげて欲しい」
婚約者にそう言われたフェリシアは──
(え、絶対嫌なんですけど……?)
その瞬間、前世の記憶を思い出した。
彼女は五日間、部屋に籠った。
そして、出した答えは、【婚約解消】。
やってられるか!と勘当覚悟で父に相談しに部屋を出た彼女は、愕然とする。
なぜなら、前世の記憶を取り戻した影響で魔力が暴走し、部屋の外では【五日間】ではなく【五百年】の時が経過していたからである。
フェリシアの第二の人生が始まる。
☆新連載始めました!今作はできる限り感想返信頑張りますので、良ければください(私のモチベが上がります)よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる