21 / 36
21話・不安定な立場
しおりを挟むカレイラ侯爵家の末娘グレース様はネレイデット侯爵家嫡男アルド様の婚約者。もしアルド様が見つからなかった場合、リオン様と結婚するつもりのようです。これなら相手は変わっても家同士の関わりは変わりませんものね。有り得る話です。
「そのようなこと、私には関係ございません」
平静を装いながら応えると、デュモン様に笑われてしまいました。
「関係あるでしょう。あなたがさっき仰ったんですよ。『花嫁修業をしている』と」
「うっ……」
だって、監禁されているだなんて大っぴらに言えないではありませんか。今の私は自分の意思で建物の外に出られます。どのみち監禁云々は信じてもらえないでしょうが、下手をすればネレイデット侯爵家の評判を落としかねない話。私が自ら進んで休学し、花嫁修業を始めたと答えるのが一番自然なのです。
しかし、状況は変わってしまいました。
今の私はグレース様にとって最も邪魔な存在。現にデュモン様から向けられる視線は、とても好意的とは思えない冷たいものに感じました。
「そこで何をしている!」
デュモン様に睨まれ、身じろぎもできずにいると、不意に何処かから怒声が響きました。
門を見れば、リオン様の従者ダウロさんの姿がありました。慌てた様子で馬を走らせ、こちらへ駆けてきます。
「……チッ、邪魔が入ったか」
「またおまえか、デュモン!」
この二人、顔見知りのようですね。
「敷地内に入るなと言っただろう」
「何をそんなに警戒する必要がある。やはりアルド様を隠しているのでは?」
「だーかーらぁ、アルド様の行方は僕たちも知らないんだ! 何度も言わせるな!」
普段はダウロさんが追い払ってくれていたようです。だから私は今日まで何も知らなかったのですね。
「仕方ない。出直します」
「二度と来るな!」
二人はひとしきり言い合った後、フンと鼻を鳴らして顔を背けました。これがいつものやり取りなのでしょうか。なんだか険悪な空気です。
デュモン様は私に向き直り、恭しく頭を下げました。ダウロさんを無視して、にこやかに。
「ではまた。ごきげんよう、フラウ嬢」
「え、ええ」
先ほど睨まれたこともあり、私は引きつった笑みを返すしかできませんでした。
馬に乗って去っていくデュモン様と男たちを呆然と見送っていたら、別邸の玄関からルウが飛び出してきました。
「フラウお嬢様ぁ、大丈夫でした?」
「ダウロさんが間に入ってくれたから平気よ」
「良かったぁ~! あの人怖くってぇ」
確かに、デュモン様はちょっと怖い雰囲気のかたでした。乗っていた馬も大きくて立派で、彼自身も背が高くてがっしりしておりましたし、かなり腕が立つのでしょう。下手に抵抗すればどうなっていたか。
「フラウ様、お怪我は? 奴に何かされませんでしたか」
「いえ、何も。……ただ、私がこの別邸にいることが知られてしまいました」
「まあ、事実ですからね。バレるのも時間の問題でしたよ」
ならず者を追い返すつもりで表に出たのですが、まさか相手がカレイラ侯爵家の手の者だとは思いもしませんでした。軽率でしたわ。
「実は、グレース嬢は何度かヴィルジーネ伯爵邸にも訪ねて来ているんですよ。表向きの訪問理由は学友の見舞いですが、恐らくリオン様から身を引くように頼むつもりだったのでしょう。リュシオン卿は毎回居留守を使ってるそうです」
「まあ、お父様も苦労しているのね」
カレイラ侯爵家は我がヴィルジーネ伯爵家より家格が上。相対してしまえば逆らえません。直接顔を合わせることを避けるくらいしか対策はないのです。でも、それも長くは続かないでしょう。
「……私、どうしたら良いのかしら」
ぽつりと弱音をこぼすと、ダウロさんは少し考えてから口を開きました。
「フラウ様と坊っちゃんは一度じっくり今後の話をしたほうがいいですよ」
「でも、リオン様にそのつもりがないのでは」
「はい? そんなわけないでしょう」
「だって、いつも怖い顔をしておりますし、ほとんど喋ってくださらないのです。きっと私との時間が苦痛なのだと思います」
私の返答に、ダウロさんは盛大な溜め息を吐き出しながら地面にしゃがみ込みました。両手で頭を抱えて「マジか……」と呟いております。そして、バッと顔を上げました。いつもは淡々としているダウロさんが切羽詰まった表情をして私に訴えかけます。
「ホントにちゃんと話をしてくださいよ! 僕、坊っちゃんによぉく言い聞かせておきますんで!」
「は、はぁ……」
0
《 騎士団長と貴族の少年の恋 》
侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい
《 親友同士の依存から始まる関係 》
君を繋ぎとめるためのただひとつの方法
《 異世界最強魔法使い総受 》
魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話
《 わんこ営業マン×メガネ敬語総務 》
営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい
《 ダンジョン探索で深まる関係 》
凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
お気に入りに追加
682
あなたにおすすめの小説

掃除屋ダストンと騎士団長
おもちのかたまり
恋愛
王都には腕利きの掃除屋がいる。
掃除屋ダストン。彼女の手にかかれば、ごみ屋敷も新築のように輝きを取り戻す。
そんな掃除屋と、縁ができた騎士団長の話。
※ヒロインは30代、パートナーは40代です。
♥ありがとうございます!感想や応援いただけると、おまけのイチャイチャ小話が増えますので、よろしくお願いします!今週中に完結予定です。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

婚約者様は大変お素敵でございます
ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。
あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。
それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた──
設定はゆるゆるご都合主義です。

【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」
21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」
そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。
理由は簡単――新たな愛を見つけたから。
(まあ、よくある話よね)
私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。
むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を――
そう思っていたのに。
「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」
「これで、ようやく君を手に入れられる」
王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。
それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると――
「君を奪う者は、例外なく排除する」
と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!?
(ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!)
冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。
……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!?
自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる