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12話・親友の訪問
しおりを挟む監禁二日目の昼下がり。
王都郊外にあるネレイデット侯爵家の別邸に二台の馬車がやってまいりました。
「お招きありがとう、フラウ」
「この辺りに来たの初めてだわ」
「ごめんなさい二人とも。急にお茶会の場所を変更して」
二階の客室に入ってきた友人たちを笑顔で出迎え、窓辺の席に案内して座っていただきました。すぐに老メイドがワゴンでお茶とお菓子を運んできます。相変わらず見惚れてしまうくらいの良い手際。私の侍女ルウが手を出す間もなく完璧に支度を整えてくれました。
「……それで、どういうことなの」
「急に休学だなんて聞いてないんだけど?」
老メイドが退室した途端、二人はズイッと私に顔を寄せてきました。現在の状況を訝しんでいるのでしょう。
鮮やかなオレンジ色の髪を後頭部で一つに括っている気弱そうな彼女は男爵家の一人娘、アリエラ・ヴィカーズ。
艶やかな赤い髪をそのまま下ろしている快活な彼女は伯爵家の次女、コニス・シュタット。
彼女たちは貴族学院入学前から交流がある私の親友なのです。
「リオン様に婚約解消を伝えたら、そのまま別邸から帰してもらえなくなってしまったの。学院の休学も勝手に決められて」
「ええ、そんな」
「ウソでしょ?」
「残念だけど本当なのよ」
掻い摘んで事情を説明すると、二人は困惑した顔になりました。
「わたしたち普通に出入りしたけど?」
「この客室、今は鍵がかかってないじゃない。逃げるならウチの馬車に乗せてあげるわよ」
アリエラとコニスが疑問に思うのも当然です。
「それが、リオン様の許しがあるまでは家に入れないってお父様が……」
「ああ~」
「それもそうか~」
父は『リオン様に従うように』と伝えてきました。格上の侯爵家には逆らえない、と二人も納得したようです。
「リオン様はどういうつもりでフラウをこんなところに閉じ込めたのかしら」
「ろくに話したこともなかったんでしょ?」
「そうなのよ……」
実は、二人には以前からリオン様との関係について相談というか愚痴をこぼしていたのです。
婚約成立後、月に一度くらいの頻度で顔を合わせる場が設けられました。どちらかの家でお茶の時間を共に過ごす程度。私から話しかけてもリオン様はいつもムスッとした表情で「ああ」とか「うん」とか短い言葉で返すのみ。あちらから話しかけられたこと、微笑みかけられたことは一度もありません。
私がお嫌いなのか、格下の伯爵家への婿入りが気に食わないのか、もしくはその両方か。
その割に、月に一度の顔合わせには必ず参加するのです。お仕事の都合で来られなくなった場合は、中止ではなくわざわざ別の日に予定を変更したりして。
本心はどうであれ、義理堅い方なのだと思いました。だから私も義理を通そうとしましたのに、まさか監禁生活になるなんて。
ちなみに、今は平日の昼間なのでリオン様はお留守です。騎士団の宿舎に出勤しているのでしょう。
「リオン様はフラウをどうしたいのかしら」
それは私が一番知りたいことです。
婚約を解消したくないだけならそう伝えればいい。父にはネレイデット侯爵家に逆らってまでヴィルジーネ伯爵家を存続させる覚悟はありません。
でも、彼は私の身柄を王都郊外の別邸に閉じ込めるだけ。何がしたいのか、まだ分からないのです。
「それでね、アルド様が失踪された件で『彼女』が荒れてるの」
「今日も教室で周りに当たり散らしてたわ」
「……まあ、そうなるわよね」
その『彼女』とはアルド様の婚約者。
侯爵令嬢グレース・カレイラ様のことです。
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