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11話・侍女の説得
しおりを挟む私専属の侍女ルウ。
彼女は王都中心街に店を構える裕福な商家の娘で、我がヴィルジーネ伯爵家に行儀見習いを兼ねて奉公に上がったと聞いております。
「あっ、お嬢様美味しそうなもの食べてる~! あたしも食べていいですかぁ?」
行儀見習いの成果はご覧の有り様ですけれども、持ち前の明るさと嘘が言えないところが憎めなくて傍に置いております。
「それで、本当にお父様はこの状況を認めてらっしゃるの?」
改めて問うと、ルウは口いっぱいに頬張ったプチケーキをもぐもぐしながら自分で予備のカップにお茶を注いで飲み干しました。それからようやく私の質問に答えます。
「お嬢様を別邸に残してきたとお伝えした時は『迎えにいかねば!』と慌ててらしたんですけど、リオン様からの手紙を読んだら『そのまま別邸でおとなしくしているように』と急に態度が変わりましたぁ」
「そう……」
リオン様はどういう内容の手紙を書いたのかしら。一人娘の私が監禁されているのですよ。下手をすればヴィルジーネ伯爵家の存亡に関わると、父が一番よく分かっているはずですのに。
「まあ良いじゃありませんかぁ! 学院は休学届が出されてますし、しばらく羽根を伸ばしたらいいんです!」
「でも、私は……」
「旦那様も承知してますし、何も問題ないんじゃないですか? って言うかぁ、ネレイデット侯爵家に逆らったりしたら、それこそヴィルジーネ伯爵家が潰されちゃいますよぉ?」
「うぐっ」
確かに。
我がヴィルジーネ伯爵家は弱小貴族。私がリオン様と婚約してからは侮られることは減りましたけど、それでもあまり強い立場とは言えません。
ネレイデット侯爵家は今アルド様出奔の件で混乱しており、気が立っておられることでしょう。そんな時に揉め事を起こせば、例えこちらの主張が正しくともどんな仕打ちを受けるか分かりません。婿養子を取って家を継ぐ前に家自体がなくなってしまったら元も子もないですもの。
「だから、しばらく別邸でゆっくりしましょうよぉ!」
……やたら監禁生活を推奨しますわね。
ジト目で睨めば、ルウはそっぽを向いて下手な口笛を吹き始めました。本当に隠し事ができない子です。
「あなた何か企んでないかしら」
「そっ、ソンナコトナイヨ!!」
あやしい。
「怒らないから正直に答えなさい!」
「わかりましたぁ!」
詰め寄れば、あっさりと口を割りました。
「別邸にいる間はウチの侍女頭と顔を合わせずに済むからぁ……」
そんなことだろうと思ってましたわ。
専属侍女とはいえ、私が貴族学院に行っている間は他の召使いたちと一緒に屋敷全体の仕事もします。ルウは誰からも好かれる性格で周りとも仲良くしておりますが、教育係の侍女頭からは顔を合わせるたびに小言を言われているのです。ルウが苦手意識を持ってしまうのも仕方のないこと。
私も話し相手が来てくれて嬉しいですけれども、気がゆるみまくって普段より言動が乱れているルウがちょっと心配になってきました。監禁を終えて屋敷に戻った時に侍女頭から更に怒られてしまいますよ。
「あっ、そういえば!」
分が悪いと察したルウが、話を切り上げるために別の話題を振ってきました。
「明日は学院が終わってから、ご友人を招く予定だった気がするんですけどぉ?」
「そ、そうでしたわ!」
監禁されたことがショックで、すっかり忘れておりました。
明日は元々半日で学院が終わる予定でしたので、午後から仲の良いお友だちを我が家に招く約束をしておりました。招くのは二人だけなのですが、彼女たちに連絡する手段がありません。
何の相談もなしに休学した上、お茶会の約束まで反故にしてしまったら彼女たちに失礼過ぎますわ!
「あ、じゃあ、使いの人を借りれるか聞いてきますねぇ」
焦る私を尻目に、ルウはさっさと客室から出ていってしまいました。
礼儀作法はイマイチですけど、行動力はピカイチなんですよね、あの子。
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