【完結】別れを告げたら監禁生活!?

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
2 / 36

2話・馬車、カムバック

しおりを挟む


 状況を整理いたしましょう。

 まず、ここは王都郊外にあるネレイデット侯爵家の別邸。周りは深い森に囲まれており、付近に民家なし。行き来には馬車を使わねばなりません。

 この屋敷はリオン様が週末を過ごすためだけに使われるのみ。

 私が閉じ込められているのは屋敷の二階にある客室で、お手洗いやお風呂、続きの間に寝室もあり、生活には困らない空間と言えるでしょう。

 ですが、ここに滞在するつもりは微塵もありません。結婚前の娘が、例え婚約者とはいえ殿方の屋敷にお泊まりなんてできるわけがないのです。

 だって、早くリオン様と婚約を解消して、我がヴィルジーネ伯爵家に婿入りしてくれる殿方を見つけなくてはならないんですもの。ふしだらな娘だと噂が立ったら困ります!

「そうだわ! 馬車があるじゃないの」

 固く閉ざされた廊下側の扉を諦め、窓辺に駆け寄ります。大きなガラス窓から下を見れば、別邸の玄関ポーチ前の広場に二頭引きの小さな馬車が停まっておりました。あれは今日私が乗ってきた、ヴィルジーネ伯爵家の馬車です。

 前部分には馭者ぎょしゃが、中には侍女のルウが待機しております。夕刻までに私が出てこなければ、彼らが様子を見に来るはず。

 とはいえ、何時間も待つのも退屈ですし、今から窓を開けて助けを呼んでみますか。少々距離がありますけど、大きな声を出せば聞こえるでしょう。

 ……あらっ?
 この部屋の窓、高い位置に鍵があるせいで手が届きませんわ。椅子の上に乗れば開けられるかしら。私の背がもう少し高ければ楽に届きましたのに。

 客室の隅に置いてあった椅子を窓辺まで運び、靴を脱ぎ、ドレスの裾を摘みながら上がります。こんな姿を誰かに見られたら恥ずかしいですけれど、今は非常事態ですからね。

 椅子の上に乗って手を伸ばし、窓の鍵に触れる。その瞬間、窓の外で何やら動きがありました。
 よく見れば、玄関から一人の青年が出て我が家の馬車へと歩み寄っています。

 あれは、リオン様?

 馭者と何やら話をしています。次いで馬車の中から侍女のルウが顔を出しました。彼女にも話をし、何かを手渡しているようです。

「まさか」

 気付いた時には時すでに遅し。
 我が家の馬車は、あろうことか私を乗せぬまま走り出してしまったのです。

「ば、馬車ーーーーーッ!!!」

 窓はまだ開かず。
 私の叫びは虚しく客室内に響くだけ。

 門から出ていく馬車を茫然と見送っていると、玄関前の広場にいたリオン様がこちらを見上げておりました。バチっと視線が合い、思わずこちらから逸らします。

 先ほどまでは割と楽観的に考えていましたけど、もしかして今の状況はかなりマズいのでは?

 馬車がなければ家には帰れません。
 帰るためには、リオン様に許可していただくしかありません。婚約解消は譲れませんし、そもそも話し合いに応じていただけるかも分からない状態です。

「どっ、どっ、どうしましょう……」

 私は椅子の上に立ち尽くしたまま、顔を青くするしかできませんでした。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」

21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」 そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。 理由は簡単――新たな愛を見つけたから。 (まあ、よくある話よね) 私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。 むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を―― そう思っていたのに。 「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」 「これで、ようやく君を手に入れられる」 王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。 それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると―― 「君を奪う者は、例外なく排除する」 と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!? (ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!) 冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。 ……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!? 自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

婚約者様は大変お素敵でございます

ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。 あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。 それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた── 設定はゆるゆるご都合主義です。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです

あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」 伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

「幼すぎる」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました

ゆる
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ!」 そう言い放たれ、婚約者ライオネルに捨てられた公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 幼く見える容姿のせいで周囲からも軽んじられ、彼女は静かに涙を飲み込んだ。 そして迎えた婚約破棄の夜――嫉妬に狂った伯爵令嬢アメリアに階段から突き落とされ、意識不明の重体に……。 しかし一年後、目を覚ましたシルフィーネの姿はまるで別人だった。 長い眠りの間に成長し、大人びた美貌を手に入れた彼女に、かつての婚約者ライオネルは態度を豹変させて「やり直したい」とすり寄ってくるが―― 「アメリア様とお幸せに」 冷たく言い放ち、シルフィーネはすべてを拒絶。 そんな彼女に興味を持ったのは、隣国ノルディアの王太子・エドワルドだった。 「君こそ、私が求めていた理想の妃だ」 そう告げる王太子に溺愛され、彼女は次第に新たな人生を歩み始める。 一方、シルフィーネの婚約破棄を画策した者たちは次々と転落の道を辿る―― 婚約破棄を後悔して地位を失うライオネル、罪を犯して終身刑に処されるアメリア、裏で糸を引いていた貴族派閥の崩壊……。 「ざまぁみなさい。私はもう昔の私ではありません」 これは、婚約破棄の屈辱を乗り越え、“政略結婚”から始まるはずだった王太子との関係が、いつしか真実の愛へと変わっていく物語――

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

処理中です...