39 / 58
39話・悩みと対策
しおりを挟む 少し前の事、デリックと対面する前に私とレオナードは事前対策の為に恋愛小説を読み漁った。
その中で私達は同時に首を捻った表現があったのを、私は覚えている。それは───【僕の可愛い子猫ちゃん】だった。
他にもピーチ、チェリー、カップケーキ………等々。まぁそれらの登場頻度は少なかったので、見ないフリをした。けれど、この【僕の可愛い子猫ちゃん】というフレーズは、やたらめったら出てきたのだ。
…………なぜ、人間に向かって、猫呼ばわりする?そして、そう呼ばれた女子は何故、嬉しそうにする?
薄暗い図書室で、その二つの疑問を同時にぶつけた結果、私達は結局その答えを見つけられなかった。ただ、わかったことが二つあった。一つ目は、そんなことを口にする人間の心理が理解できないこと。もう一つは、そんな扱いをされるのは不快だということ。
そう、それなのに………………私は、やらかしてしまったのだ。
仕草を犬に例えられるならともかく、存在そのものを、哺乳類扱いをされたのだ。生き物の頂点に立つ霊長類ヒト科という立ち位置にいるレオナードが受けた衝撃は、きっと計り知れないものなのだろう。本当に申し訳なかった。
もし仮に、私が同じようなことを言われたら、落ち込む前に、そう言った奴を地面に埋め込ませるところ。
そんなことを考えながら、そぉっとレオナードに視線を向ければ、彼は絶望の淵にいた。本当にゴメン。マジでゴメン。
…………ただ一つ言わせて欲しい。悪気はなかったのだ。
「あのね、レオナード。そうじゃないわ…………」
そこまで言って、死んだ目をした公爵家のご長男様を見つめる。表情は臨終しているけれど、風になびくその髪はつやっつやっの、さらっさらっ。ああ、どうあってもジャスティを思い出してしまう自分が恨めしい。
「と、言いたいところだけれど、あなたの毛並みは滑らかで…………その…………ごめんなさい」
結局、私は素直な気持ちを伝え、謝罪をすることを選んだ。
そうすれば、レオナードは弱々しい声で『いや、良いんだ』と、緩く首を振った。けれど、私の目には、何一つ良いと思えるものが見当たらない。
ここは再び謝罪の言葉を紡ぐべきだろうか。それとも『ユーアーホモサピエンス!』と元気に伝えるべきなのだろうか。いや、違う。今はそっとしておくのが一番だ。
長々とそんなことを考えていたら、不意にレオナードが私に視線を向け、口を開いた。
「すまない、ミリア嬢。………………浮上するまでに少々時間が欲しい。悪いがケーキを食しながら待っててもらえるか?」
「もちろん良いわよ。レオナード」
レオナードのテンションが地に落ちたのは、間違いなく私の責だ。罪悪感で胸が痛い。けれど、やっとフォンダンショコラを食べれるこの現状に、私は食い気味に頷いてフォークを手にしてしまった。それを見たレオナードは、何も言わなかった。
もしゃもしゃとフォンダンショコラを咀嚼する。とても美味しい。
そして、完食した途端に、自分のショコラも差し出してくれるレオナードに素直に感謝の念を抱く。っていうか、項垂れているのに、良く見えたものだ。
と、そんなことを考えながら出されたスウィーツを全て食べ終えた私だったけれど、レオナードは未だに浮上中。ここで急かすような鬼畜なことはできないので、私はぼんやりと東屋の天井にいる天使さん達を見つめてみる。
本日も天使さんも微笑みを湛えている。けれど、どことなく複雑な笑みに見える。言葉にするなら『もう、お前ら勝手にしとけ』的な感じ。
まぁ、確かに今日の私達は傍から見たら、首を捻る光景なのかもしれない。
と、こっそり苦笑を浮かべた瞬間、視界の隅でようやっと顔を起こすレオナードが映った。
「………………ミリア嬢、すまない待たせたな」
「いいえ、大丈夫よ」
少し微笑んでそう伝える。けれど、私はすぐに今日の本題を切り出すことにした。なにせ、今の私には時間に限りがあるのだ。
「ねえ、レオナード。浮上したところ悪いんだけれど…………」
ちらっと上目遣いでレオナードを見れば、彼は引き攣った表情で小さく頷いた。それが痙攣の仕草にも見えなくはないけれど、ここは気付かないふりをして、言葉を続けさせて貰う。
「私、この前から保留になっている質問の回答をしたいんだけれど、あなたのメンタルは大丈夫?受け止められるかしら?」
「ああ、もちろんだ」
「え?あ、そ、そうなの」
「ああ」
ぶっちゃけ、今更かよと言われてしまうと思っていた。いや、もういいやと言われることもあると思っていた。
けれどレオナードは、この時が来たかと呟いて、居ずまいを正した。
それに倣い私も、居ずまいを正して口を開く。会えない間ずっと考えていた彼の問い掛けの答えを。
その中で私達は同時に首を捻った表現があったのを、私は覚えている。それは───【僕の可愛い子猫ちゃん】だった。
他にもピーチ、チェリー、カップケーキ………等々。まぁそれらの登場頻度は少なかったので、見ないフリをした。けれど、この【僕の可愛い子猫ちゃん】というフレーズは、やたらめったら出てきたのだ。
…………なぜ、人間に向かって、猫呼ばわりする?そして、そう呼ばれた女子は何故、嬉しそうにする?
薄暗い図書室で、その二つの疑問を同時にぶつけた結果、私達は結局その答えを見つけられなかった。ただ、わかったことが二つあった。一つ目は、そんなことを口にする人間の心理が理解できないこと。もう一つは、そんな扱いをされるのは不快だということ。
そう、それなのに………………私は、やらかしてしまったのだ。
仕草を犬に例えられるならともかく、存在そのものを、哺乳類扱いをされたのだ。生き物の頂点に立つ霊長類ヒト科という立ち位置にいるレオナードが受けた衝撃は、きっと計り知れないものなのだろう。本当に申し訳なかった。
もし仮に、私が同じようなことを言われたら、落ち込む前に、そう言った奴を地面に埋め込ませるところ。
そんなことを考えながら、そぉっとレオナードに視線を向ければ、彼は絶望の淵にいた。本当にゴメン。マジでゴメン。
…………ただ一つ言わせて欲しい。悪気はなかったのだ。
「あのね、レオナード。そうじゃないわ…………」
そこまで言って、死んだ目をした公爵家のご長男様を見つめる。表情は臨終しているけれど、風になびくその髪はつやっつやっの、さらっさらっ。ああ、どうあってもジャスティを思い出してしまう自分が恨めしい。
「と、言いたいところだけれど、あなたの毛並みは滑らかで…………その…………ごめんなさい」
結局、私は素直な気持ちを伝え、謝罪をすることを選んだ。
そうすれば、レオナードは弱々しい声で『いや、良いんだ』と、緩く首を振った。けれど、私の目には、何一つ良いと思えるものが見当たらない。
ここは再び謝罪の言葉を紡ぐべきだろうか。それとも『ユーアーホモサピエンス!』と元気に伝えるべきなのだろうか。いや、違う。今はそっとしておくのが一番だ。
長々とそんなことを考えていたら、不意にレオナードが私に視線を向け、口を開いた。
「すまない、ミリア嬢。………………浮上するまでに少々時間が欲しい。悪いがケーキを食しながら待っててもらえるか?」
「もちろん良いわよ。レオナード」
レオナードのテンションが地に落ちたのは、間違いなく私の責だ。罪悪感で胸が痛い。けれど、やっとフォンダンショコラを食べれるこの現状に、私は食い気味に頷いてフォークを手にしてしまった。それを見たレオナードは、何も言わなかった。
もしゃもしゃとフォンダンショコラを咀嚼する。とても美味しい。
そして、完食した途端に、自分のショコラも差し出してくれるレオナードに素直に感謝の念を抱く。っていうか、項垂れているのに、良く見えたものだ。
と、そんなことを考えながら出されたスウィーツを全て食べ終えた私だったけれど、レオナードは未だに浮上中。ここで急かすような鬼畜なことはできないので、私はぼんやりと東屋の天井にいる天使さん達を見つめてみる。
本日も天使さんも微笑みを湛えている。けれど、どことなく複雑な笑みに見える。言葉にするなら『もう、お前ら勝手にしとけ』的な感じ。
まぁ、確かに今日の私達は傍から見たら、首を捻る光景なのかもしれない。
と、こっそり苦笑を浮かべた瞬間、視界の隅でようやっと顔を起こすレオナードが映った。
「………………ミリア嬢、すまない待たせたな」
「いいえ、大丈夫よ」
少し微笑んでそう伝える。けれど、私はすぐに今日の本題を切り出すことにした。なにせ、今の私には時間に限りがあるのだ。
「ねえ、レオナード。浮上したところ悪いんだけれど…………」
ちらっと上目遣いでレオナードを見れば、彼は引き攣った表情で小さく頷いた。それが痙攣の仕草にも見えなくはないけれど、ここは気付かないふりをして、言葉を続けさせて貰う。
「私、この前から保留になっている質問の回答をしたいんだけれど、あなたのメンタルは大丈夫?受け止められるかしら?」
「ああ、もちろんだ」
「え?あ、そ、そうなの」
「ああ」
ぶっちゃけ、今更かよと言われてしまうと思っていた。いや、もういいやと言われることもあると思っていた。
けれどレオナードは、この時が来たかと呟いて、居ずまいを正した。
それに倣い私も、居ずまいを正して口を開く。会えない間ずっと考えていた彼の問い掛けの答えを。
105
お気に入りに追加
364
あなたにおすすめの小説

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。
そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。
そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。
「エレノア殿、迎えに来ました」
「はあ?」
それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。
果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?!
これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。

前世でわたしの夫だったという人が現れました
柚木ゆず
恋愛
それは、わたしことエリーズの婚約者であるサンフォエル伯爵家の嫡男・ディミトリ様のお誕生日をお祝いするパーティーで起きました。
ディミトリ様と二人でいたら突然『自分はエリーズ様と前世で夫婦だった』と主張する方が現れて、驚いていると更に『婚約を解消して自分と結婚をして欲しい』と言い出したのです。
信じられないことを次々と仰ったのは、ダツレットス子爵家の嫡男アンリ様。
この方は何かの理由があって、夫婦だったと嘘をついているのでしょうか……? それともアンリ様とわたしは、本当に夫婦だったのでしょうか……?

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」
ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」
美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。
夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。
さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。
政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。
「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」
果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。

【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です
灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。
顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。
辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。
王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて…
婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。
ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。
設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。
他サイトでも掲載しています。
コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる