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16話・マント男との再会

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「騎士団の拠点は隣の都市にあるんだよ」
「そっ、そうなんですか」

 翌日やって来たラウリィは騎士団の紋章入りの立派な馬車を伴っていた。
 遠出をするとは予想もしていなかったルーナとティカは若干引いた。しかし、周りの人々から背中を押され、あれよと言う間に馬車に乗せられてしまう。

 街を警備する騎士団の拠点なのだから当然この街の中にあるものだと思い込んでいたが、どうやら違ったらしい。

「騎士団の拠点は王都を中心とした東西南北にある大きな都市に置かれていてね、そこから周辺の街や村に派遣されるんだよ」

 馬車で移動しながら、ラウリィが騎士団について解説を始めた。

 貴族の魔力で居住区域を守るアルケイミアとは違い、シュベルトでは騎士団が武力で魔獣から民を守っている。毎日休まず管轄地域を巡回していると聞き、ルーナは感心した。ティカは元々知っていたので特に驚きはせず、黙って説明を聞いている。

「本来は十数人で隊を組んで任務に当たるんだけど、君が助けたあの男は一人で動く癖があってね。ちょっと困ってるんだ」
「まあ」
「気が早いというか短気というか。まあ、彼が迅速に動いたおかげで救われた人も少なくないから一概に悪いわけじゃないけど」

 彼の言葉の端々から友人を心配する気持ちが垣間見えた。マントの男はきっと良い騎士に違いない、とルーナは思う。

 一時間ほど街道を走った先に大きな都市があった。外周は背の高い石壁で囲まれ、出入りできるのは大きな開閉式の門のみ。騎士団の馬車は検問で止められることなくそのまま都市の中へと入っていった。

 窓の外に流れてゆく活気のある街並みを興味津々で眺めるルーナの姿を、ラウリィは微笑ましそうに見守っている。

「この都市に来たのは初めて?」
「はい、見たことのないものばかりで」
「よければ後で案内しようか」
「あ、いえっ。ご用事が終わりましたらすぐ戻りますので!」

 快く送り出されたとはいえ、ティカは定食屋の仕事を休み、ルーナも針仕事を置いてきている。ゆっくり遊ぶわけにはいかない。送り迎えに騎士団の馬車を使うのなら尚更だ。

 しばらく大通りを進んだところで馬車が止まった。目的地である騎士団の拠点に到着したのだ。周辺は広く空けられており、馬や馬車が通りやすくなっている。

、足元に気を付けて」
「ありがとう、大丈夫よ」

 ティカは人前ではルーナのことを『ルウ』と呼ぶ。本名で呼べば追っ手に見つかる可能性がある。もっとも、気を付けていたにも関わらずあと少しのところで捕まるところだったのだが。

「わあ……!」

 馬車から降りたルーナは目の前の建物を見上げて感嘆の息を漏らす。騎士団の拠点は石造りの大きな建物だった。

「さ、どうぞお嬢さんがた」

 先に降りたラウリィが扉を開けて二人を招き入れた。内部の造りは飾り気がなく簡素だが、隅々まで手入れが行き届いていて清潔感がある。板張りの廊下を進むと、時折すれ違う騎士たちから明るく声を掛けられた。緊張するルーナの代わりにティカが笑顔で応える。
 先導しながら、ラウリィはそんな二人の様子を密かに観察していた。

 二階の奥にある部屋の扉をノックすると、中から「入れ」と声が聞こえてきた。その声があまりにも不機嫌そうだったので、ルーナとティカは思わず顔を見合わせた。扉を開け、ラウリィは室内に入っていく。

「おまえの恩人を連れてきたぞ」
「……ああ」

 恐る恐る、ルーナたちも室内へと入る。
 この部屋はどうやら執務室のようだ。窓際に大きな机、左右の壁には天井高の書棚がある。手前にはソファーとテーブルがあり、数人で歓談できる場所となっている。

 ラウリィに勧められるままにソファーに座ると、向かいにリヒトと呼ばれた青年が腰を下ろした。鋭い目がルーナを射抜く。焦茶の髪は後ろに撫で付けられ、のりの利いたシャツをきっちり着込んでいる。

 先日路地裏で会った薄汚れたマントの男と目の前の青年が同一人物とは思えず、ルーナは戸惑った。



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