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14話・銀髪の騎士

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 侯爵令嬢ルーナと侍女ティカの穏やかな逃亡生活は唐突に危機を迎えた。祖国アルケイミアからの追っ手がルーナを探しにやってきたからだ。

「早く布を取れ!」

 騎士たちからかされ、ルーナは仕方なく自分の頭を覆うスカーフに手をかけた。外せば銀の髪があらわになる。きっと彼らはルーナを捕えてクレモント侯爵家へと連れ戻すだろう。インテレンス卿から逃れるために離れを燃やし、死を偽装したのだ。厳しく責められ、更に扱いが酷くなる未来が容易に浮かんだ。

 唇を噛みながら、スカーフの結び目をゆっくりと解いてゆく。定食屋内にいる全員の視線が奥のテーブルに座るルーナに集まった。

 ところが、スカーフが外れる前に再び入り口の扉が開かれた。新たに入ってきた青年も騎士の装いをしている。略式武装ではあるが、腕章と腰に差した剣が彼がシュベルトの騎士だと示していた。

「他国の騎士が我が国に何の用ですか」

 突然現れた騎士に目的を問われ、アルケイミアの騎士たちは明らかに動揺を見せた。だが、彼らは目的を忘れてはいない。

「なんだ貴様は! 我々は人を探しているだけだ!」
「ならば事前に街の代表に相談して助力を願うのが筋でしょう。聞き込みだけならともかく脅しや強制は見過ごせません」

 どうやら、この追っ手の騎士たちは様々な場所で高圧的な振る舞いをして街の住人から苦情が相次いでいるらしい。だからこそ銀髪の騎士は現場へ駆け付けたのだ。

 冷静に諭され、追っ手の騎士たちは狼狽えた。

「ラウリィ様、この人たちは銀の髪の女の子を探しに来たって言うんですよ」

 女将に耳打ちされ、ラウリィと呼ばれた騎士はニコリと笑んで小首を傾げて見せた。短く刈られた銀の髪が店内の灯りに煌めくさまに、追っ手の騎士たちは戸惑う。

「へえ、奇遇ですね。僕も銀髪ですよ。シュベルトではたいして珍しい髪色ではないと思いますけどね」

 アルケイミアでは他に銀髪はいなかったから目印と成り得た。だが、実際目の前に立つ青年騎士の髪は銀髪。珍しくもないと言われてしまい、追っ手の騎士たちは困惑して顔を見合わせている。

「もしや、堂々と協力要請ができないような後ろ暗い事情でもあるのですか? でしたら放ってはおけませんね」
「くっ……」

 店内の客から「そうだそうだ!」「えらそうにしやがって!」とヤジを飛ばされ、さすがに分が悪いと察したか「出直してくる!」と言い捨て、彼らは定食屋から出て行った。

「ラウリィ様、ありがとうございました!」
「はは、騎士として当然のことをしたまでだよ」

 店主や女将、客たちから次々に礼を言われ、シュベルトの騎士ラウリィは朗らかな笑顔を返した。先ほどまでとは違い、口調も軽くなっている。そして、奥のテーブル席で固まっているルーナとティカのほうへと歩み寄った。

「君たち、見掛けない顔だね。最近この街に来たの? 変なのに絡まれて災難だったね」

 にこやかに話し掛けられ、ルーナは曖昧な笑みで応えた。代わりにティカが席を立ち、ラウリィの前で頭を下げる。

「ありがとうございました、助かりました~!」
「どういたしまして。あの人たちには監視をつけておいたから安心してね」

 彼らは何の手続きもなしに隣国で勝手な真似をした。次に何か問題を起こせば街から追い出すくらいはしてくれるのだろう。ルーナたちは安堵の息をついた。

「それで、実は僕も人探しをしているんだよね」

 そう言いながら、ラウリィは上着の内ポケットから一枚の布を取り出した。綺麗な刺繍が施された縫いかけのハンカチだ。端にうっすらシミがついている。

「このハンカチを作った人が近くに住んでるって道具屋さんから教えてもらったんだけど、知らない?」

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