6 / 58
6話・異母兄の嘲笑 2
しおりを挟む「初めての相手が勃ちの悪い年寄りじゃ可哀想だから、俺が手解きしてやるって言ってるんだ」
酷薄な笑みを浮かべながら、フィリッドはルーナのドレスの裾を捲り上げ、あらわになった太ももを撫で上げた。
「知ってるか? 狸じじいは側近の男たちに女を散々嬲らせた後で抱くのが趣味らしい。もっとも、正妻にはそんな真似できないから他の女で遊ぶのだと聞いたぞ。前の第二夫人は複数の男に弄ばれることに我慢できずに逃げ出したって話だ」
酷い話の内容とぞわりとした感触に肌が粟立つ。逃げようとするが、ルーナの両手首はフィリッドの左手によって縫い留められていて動けない。
「お兄様! 私たち、半分とはいえ血が繋がっているのですよ。悪ふざけはおやめください!」
涙目で必死に説得を試みる妹を見下ろしながら、フィリッドの喉がクッと笑いをこぼした。こらえきれず、ついには吹き出してしまう。
「ふはは! ……馬鹿だな、ルーナ。おまえの母親は商売女だ。おまえが父上の本当の娘かどうかすら怪しいもんだ。その証拠に、俺たちは似ても似つかん」
確かに、淡い銀色の髪と金の瞳を持つルーナは父親とも兄とも異なる。目鼻立ちも似ていない。
「だから、俺はおまえを妹だと思ったことは一度もないよ」
ルーナの眉が哀しみでひそめられた。
母親を侮辱された怒りもあるが、兄から妹だとすら思われていなかった事実が途轍もなく悲しかった。開きかけた唇からは何も言葉を発することができず、なおも続くフィリッドの嘲りの言葉を聞き続ける羽目になる。
「聖女に選ばれたら儲けもの。ダメだったら有力者に嫁がせて地盤を固める。おまえは最初からそのためだけにクレモント侯爵家で飼われていたんだよ」
ルーナの体から力が抜けた。見開いたままの目からは涙があふれ、頬を濡らしていく。
「本当に何も知らなかったんだな。かわいそうに。大丈夫、可愛がってやるからさ」
フィリッドはルーナの身体を遠慮なく弄った。神殿から帰った際、きっちりしたドレスから屋敷用の普段着に着替えていたため、ボタンを外すだけで胸元がはだけられる。襟をゆるめられ、普段覆い隠している箇所に外気が触れた瞬間、何をされるか察して再び抵抗を試みた。
「いやっ! やめてください、お兄様!」
白い首筋に吸い付かれ、ルーナは力の入らない手でフィリッドの頭を押し返そうと必死にもがく。
「これ以上続けるなら人を呼びます!」
「誰を呼ぶって? もし母上の耳に入ったら罰せられるのは間違いなくおまえのほうだぞ。『売女の娘が息子を誘惑した』と声高に騒ぐだろうな」
継母である侯爵夫人だけでなく、彼女が取り仕切っている使用人たちも味方になってはくれないだろうと予想がついた。クレモント侯爵家でのルーナの立場は弱い。本心から味方をしてくれる存在など、たった一人しか浮かばなかった。
「聖女候補に手を出すわけにはいかなかったが、今のおまえはただの女だ。アバズレの母親と同じ、男にすがるだけが能の女になるんだよ」
「い、いや、お兄様、やめて!」
「じっとしていれば気持ち良くしてやる。狸じじいと結婚した後もな」
インテレンス卿と政略結婚した後も身体の関係を続けるとフィリッドは言った。嫁ぎ先は同じ王都内にあり、頻繁に実家に行き来しても誰も怪しまない。インテレンス卿から寝物語に政治の情報を聞き出すための駒としてルーナを利用するつもりなのだろう。
フィリッドの空いているほうの手がブラウスの合わせ目から滑り込み、柔らかな胸を確かめるように撫でていく。間近に聞こえる荒い息遣いと汗ばんだ手のひらの感触が気持ち悪かった。
もう駄目だ、とルーナが諦めかけた時。
「宰相閣下がご到着されましたー!」
大きな声が屋敷中に響き渡る。ルーナに覆い被さっていたフィリッドが苛立たしげに顔を上げた。
「チッ、夜に来るって話だったのに」
流石にこれから抱くほどの時間はないか、と渋々フィリッドは寝台から降りた。その隙にルーナも上体を起こし、手早く襟元と裾の乱れを整えて部屋から飛び出した。
「お嬢様っ」
「ティカ!」
廊下側の扉が僅かに開いており、隙間からティカが手招きしている。すぐさまルーナは彼女の元へと駆け寄り、小声で問う。
「さっきの大声はあなたね?」
「ええ。でも、うっかり違う馬車を見間違えちゃったみたいです」
「まあ!」
ティカはルーナを助けるため、わざと嘘の情報を屋敷中に流したのだ。使用人たちはみな予定より数時間も早く来客が来た、と今も大慌てで駆けずり回っている。
「さあ、お部屋に戻りましょう」
「ありがとう、ティカ」
ふたりは今度こそ手を取り合って私室へと戻った。
107
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

【完結】親の理想は都合の良い令嬢~愛されることを諦めて毒親から逃げたら幸せになれました。後悔はしません。
涼石
恋愛
毒親の自覚がないオリスナ=クルード子爵とその妻マリア。
その長女アリシアは両親からの愛情に飢えていた。
親の都合に振り回され、親の決めた相手と結婚するが、これがクズな男で大失敗。
家族と離れて暮らすようになったアリシアの元に、死の間際だという父オリスナが書いた手紙が届く。
その手紙はアリシアを激怒させる。
書きたいものを心のままに書いた話です。
毒親に悩まされている人たちが、一日でも早く毒親と絶縁できますように。
本編終了しました。
本編に登場したエミリア視点で追加の話を書き終えました。
本編を補足した感じになってます。@全4話

教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。
そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。
そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。
「エレノア殿、迎えに来ました」
「はあ?」
それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。
果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?!
これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。
【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。
ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。
その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。
十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。
そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。
「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」
テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。
21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。
※「小説家になろう」さまにも掲載しております。
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)


《完結》国を追放された【聖女】は、隣国で天才【錬金術師】として暮らしていくようです
黄舞
恋愛
精霊に愛された少女は聖女として崇められる。私の住む国で古くからある習わしだ。
驚いたことに私も聖女だと、村の皆の期待を背に王都マーベラに迎えられた。
それなのに……。
「この者が聖女なはずはない! 穢らわしい!」
私よりも何年も前から聖女として称えられているローザ様の一言で、私は国を追放されることになってしまった。
「もし良かったら同行してくれないか?」
隣国に向かう途中で命を救ったやり手の商人アベルに色々と助けてもらうことに。
その隣国では精霊の力を利用する技術を使う者は【錬金術師】と呼ばれていて……。
第五元素エーテルの精霊に愛された私は、生まれた国を追放されたけれど、隣国で天才錬金術師として暮らしていくようです!!
この物語は、国を追放された聖女と、助けたやり手商人との恋愛話です。
追放ものなので、最初の方で3話毎にざまぁ描写があります。
薬の効果を示すためにたまに人が怪我をしますがグロ描写はありません。
作者が化学好きなので、少し趣味が出ますがファンタジー風味を壊すことは無いように気を使っています。
他サイトでも投稿しています。

逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる