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番外編
お気に入り
しおりを挟む週末、二人揃って少し離れた大型電気店に買い物に来た。普段使っているトースターが壊れたため、新しいものを探しに来たのだ。
「種類が多過ぎてよく分かんないな」
「色々機能が付いてるやつは?」
「電子レンジは別であるんだし、トースターはパンが焼ければそれでいいだろ」
「それもそうか」
壊れたトースターは龍之介が今のマンションで一人暮らしを始める際に適当に買った安物である。当時は誰かと暮らすなど考えもしなかったため、一度に焼ける食パンは一枚のみ。長年使っているうちにフォルムに愛着が湧いて多少の不便さにも目を瞑っていたが、壊れてしまったたものは仕方ない。
これからは二人で使うのだから、謙太にも選ぶ権利はある。
「すいませーん、ちょっといいですか」
通り掛かった店員を呼び止めて何やら尋ねている謙太を横目に見ながら、龍之介は近くの売り場を眺めて回った。
週末だからか、電気店の客は家族連れが多い。
恋人。夫婦。親子。共に使うものを選ぶために来ている姿は幸せそのもので、龍之介の胸が少しだけ痛んだ。
「リュウ、在庫あるって!」
「え、なんの?」
離れた場所から大きな声で呼ばれ、龍之介は慌てて謙太のそばに戻った。
「リュウ、今のトースター気に入ってるだろ? そのシリーズの製品があるか調べてもらったんだ。色もデザインも今のやつと同じのあるらしいから」
「おまえの好きなやつ選べばいいのに」
「リュウのお気に入りがいいんだよ。流石に一枚焼きは不便だから二枚焼きにしたいけど、いい?」
こんな小さな買い物でも謙太は龍之介の意向を優先する。わざわざ店員に在庫を確認してくれたことが嬉しくて、思わず笑ってしまった。
「そうだな。そうしよう」
店員が倉庫に在庫を取りに行っている間、店内をブラブラ見て回る。大型電気店には雑貨や日用品の売り場もある。ついでに足りないものを買うことにした。
「それにしても、俺があのトースター気に入ってるって何で知ってんだよ」
さりげなく気になっていたことを尋ねれば、謙太はニッと笑った。龍之介の手にしているコーヒーフィルターを受け取り、買い物カゴへと突っ込む。
「毎日見てりゃ分かるよ」
「そういうもん?」
「うん」
あのトースターがお気に入りなのは龍之介だけではない。
あまり朝に強くない龍之介が謙太の出勤時間に合わせて早起きして、キッチンで朝食の支度をする。コーヒーとトースト、ゆで卵だけの簡単なものだが、毎日欠かさず一緒に朝食を食べている。
その光景には必ずあのトースターがあった。なんてことのない日常生活は、謙太にとってかけがえのないものだ。
「でも、一枚ずつ焼くのはな~と思ってた」
「これからは一度に焼けるな」
「そのほうがいいだろ?」
「うん、そのほうがいい」
新しいトースターはデザインも色も前のものと同じ。少し大きくなったが、すぐにキッチンに馴染むだろう。これから毎日使うのだから。
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お付き合いはお試しセックスの後で。
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