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第32話:幸せの定義
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*同居開始~本編最終話ラストに至る迄の物語*
不眠対策と陽色との接点。
謙太と一緒に居た理由のうち、二つは代わりが見つかった。あとは今の関係が深くなる前に離れてしまえばいい、と龍之介は考えていた。
そこに互いの気持ちは考慮されていない。
「陽色との繋がりが欲しくてオレと一緒にいたのか?」
「……それも理由のひとつだよ」
すっかり温くなったグラスの中身を一気に煽り、龍之介は肩をすくめた。
「こんな睡眠薬なんかで無理やり寝るより一緒に寝たほうがいいだろ」
「大の大人が添い寝がなきゃ眠れないほうがおかしいんだよ。薬のほうがまだマシだ」
謙太の手にある処方薬の紙袋を奪って元の場所に片付け、龍之介は謙太の隣に座り直した。
「なんでリュウはすぐ距離を置こうとすんの? 前だって黙って合い鍵置いて出てったし」
「あの時は居る必要がなくなったから出てっただけだ。元々陽色の世話をするために泊まり込んでたんだから」
幼い子どもを置いて奥さんに逃げられた親友からのSOS。それが全ての始まりだった。
「……オレが告白した時、出てったら困るって言ってたじゃん」
謙太が居ないと眠れないから引き止めただけ。
だが、睡眠薬があれば事足りる。
これまでも薬に頼ろうかと考えたことは何度もあったが意図的に避けていた。一緒に眠るだけならば問題ないと言い訳してその方法を選ばなかった。
薬で孤独は埋まらないからだ。
眠るだけで済まなくなった以上、もうそんな悠長なことは言っていられない。
「好きだって言ってくれたのは、オレを引き止めるための嘘だったのかよ」
「それは違う」
「じゃあなんで必要ないなんて言うんだよ。おまえを抱きたいって言ったからか? オレを嫌いになったんならそう言ってくれよ」
謙太の言葉を聞きながら、龍之介は唇を噛んだ。
胸の奥が握り潰されているように痛む。膝の上に置かれた拳は握りしめ過ぎて色を失っている。
「おまえが好きだからだよ」
揺れる気持ちを抑え込み、口を開いた。
「おまえが陽色の写真を見て悲しそうな顔をしてるの、俺は知ってる。子ども、好きなんだろ。望めば子を持つことが出来るんだから、普通に女の人と結婚して家庭を持った方がいい」
龍之介が謙太を受け入れられない理由はやはりこれだ。『普通の幸せ』を謙太から奪うわけにはいかない。
龍之介には弟妹がいるが謙太には兄弟がいない。謙太が普通の家庭を持たなかった場合、そこで血が途絶えてしまう。それも大きな理由だった。
「なんだよそれ。オレの気持ちは?」
「気の迷いだ。弱ってる時に優しくされたから懐いてるだけ。俺も、おまえも。……しばらく離れれば、きっと目が醒める」
これが最後のチャンスだ。
身体を繋げてしまったら別れが辛くなる。眞耶の時のように。このまま一緒にいたら確実に流されてしまう。その前に離れたいと龍之介は考えていた。
「俺は、俺のせいでおまえが後悔するのを見たくない。あの時普通の道を選んでいたら、なんて思われたくない」
数年後には同年代の友人たちもみな結婚し、子どもを授かるだろう。その時になって周りを羨み、悔やんでも遅い。
「だから早く次を探せ。バツイチになっちまったけど、今回の離婚はおまえに非があるわけじゃない。さっさと可愛い彼女作って結婚して──」
酔っているせいか、よく喋る。
よりによって好きな相手から違う人との結婚を勧められるなど聞くに耐えない。
もう聞きたくないと思った瞬間、謙太は龍之介の肩を掴んで強引に自分の方へと向けた。驚く彼の目に光るものを見つけ、そのまま腕を引いて抱き締める。
「もう遅い。オレの幸せはオレが決める」
不眠対策と陽色との接点。
謙太と一緒に居た理由のうち、二つは代わりが見つかった。あとは今の関係が深くなる前に離れてしまえばいい、と龍之介は考えていた。
そこに互いの気持ちは考慮されていない。
「陽色との繋がりが欲しくてオレと一緒にいたのか?」
「……それも理由のひとつだよ」
すっかり温くなったグラスの中身を一気に煽り、龍之介は肩をすくめた。
「こんな睡眠薬なんかで無理やり寝るより一緒に寝たほうがいいだろ」
「大の大人が添い寝がなきゃ眠れないほうがおかしいんだよ。薬のほうがまだマシだ」
謙太の手にある処方薬の紙袋を奪って元の場所に片付け、龍之介は謙太の隣に座り直した。
「なんでリュウはすぐ距離を置こうとすんの? 前だって黙って合い鍵置いて出てったし」
「あの時は居る必要がなくなったから出てっただけだ。元々陽色の世話をするために泊まり込んでたんだから」
幼い子どもを置いて奥さんに逃げられた親友からのSOS。それが全ての始まりだった。
「……オレが告白した時、出てったら困るって言ってたじゃん」
謙太が居ないと眠れないから引き止めただけ。
だが、睡眠薬があれば事足りる。
これまでも薬に頼ろうかと考えたことは何度もあったが意図的に避けていた。一緒に眠るだけならば問題ないと言い訳してその方法を選ばなかった。
薬で孤独は埋まらないからだ。
眠るだけで済まなくなった以上、もうそんな悠長なことは言っていられない。
「好きだって言ってくれたのは、オレを引き止めるための嘘だったのかよ」
「それは違う」
「じゃあなんで必要ないなんて言うんだよ。おまえを抱きたいって言ったからか? オレを嫌いになったんならそう言ってくれよ」
謙太の言葉を聞きながら、龍之介は唇を噛んだ。
胸の奥が握り潰されているように痛む。膝の上に置かれた拳は握りしめ過ぎて色を失っている。
「おまえが好きだからだよ」
揺れる気持ちを抑え込み、口を開いた。
「おまえが陽色の写真を見て悲しそうな顔をしてるの、俺は知ってる。子ども、好きなんだろ。望めば子を持つことが出来るんだから、普通に女の人と結婚して家庭を持った方がいい」
龍之介が謙太を受け入れられない理由はやはりこれだ。『普通の幸せ』を謙太から奪うわけにはいかない。
龍之介には弟妹がいるが謙太には兄弟がいない。謙太が普通の家庭を持たなかった場合、そこで血が途絶えてしまう。それも大きな理由だった。
「なんだよそれ。オレの気持ちは?」
「気の迷いだ。弱ってる時に優しくされたから懐いてるだけ。俺も、おまえも。……しばらく離れれば、きっと目が醒める」
これが最後のチャンスだ。
身体を繋げてしまったら別れが辛くなる。眞耶の時のように。このまま一緒にいたら確実に流されてしまう。その前に離れたいと龍之介は考えていた。
「俺は、俺のせいでおまえが後悔するのを見たくない。あの時普通の道を選んでいたら、なんて思われたくない」
数年後には同年代の友人たちもみな結婚し、子どもを授かるだろう。その時になって周りを羨み、悔やんでも遅い。
「だから早く次を探せ。バツイチになっちまったけど、今回の離婚はおまえに非があるわけじゃない。さっさと可愛い彼女作って結婚して──」
酔っているせいか、よく喋る。
よりによって好きな相手から違う人との結婚を勧められるなど聞くに耐えない。
もう聞きたくないと思った瞬間、謙太は龍之介の肩を掴んで強引に自分の方へと向けた。驚く彼の目に光るものを見つけ、そのまま腕を引いて抱き締める。
「もう遅い。オレの幸せはオレが決める」
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