61 / 86
追加エピソード
第27話:風邪 1
しおりを挟む
*同居開始~本編最終話ラストに至る迄の物語*
アラーム音が寝室内に響き渡る。
布団の中から手を伸ばし、ヘッドボードに置かれた目覚まし時計を捕まえてスイッチを切ると、謙太は上半身を起こした。
遮光カーテンの隙間から射し込む光が室内を少しだけ明るく照らしている。隣を見れば、背中を向けて眠る龍之介の姿があった。昨夜のことを思い出し、口元を緩める。
「リュウ、朝だぞー」
「んん……」
謙太は一度寝たら起きない代わりに目覚めがいい。龍之介は眠りが浅く、寝起きはやや悪い。
なかなか起きない同居人の肩に手を置き、軽く揺すってみる。だが、身じろぎするだけで全然目を覚ます気配がない。普段より寝起きが悪く感じた。
「襲っちまうぞー!」
フザけてそう声を掛けると、さっきまでの様子が嘘のように龍之介が飛び起きた。そして、警戒するようにじりじりと身体を離す。
「おはよ」
「……おはよう」
「あれ? 顔赤くね?」
「え」
謙太は龍之介の顔を覗き込み、そっと額に触れた。汗ばんだ額から手のひらに熱さが伝わる。
「リュウ、熱あるぞ」
「言われてみれば、ちょっとダルいかも」
指摘されて初めて龍之介は身体の不調を自覚した。
発熱、喉の痛み、倦怠感。典型的な風邪の引き始めの症状だ。体温計で測ってみると三十八度。まだ上がる可能性がある。
朝食をとりながら、謙太は向かいに座る龍之介の様子を窺った。食欲はあるが、起きているのが辛そうに見える。
「リュウ、オレ休もうか」
「ばか。この前たくさん有休使ったばっかだろ。こんなことくらいで使うな」
「でも」
「慣れてるから」
そう言って、龍之介は棚から氷枕を取り出した。冷凍庫の氷をザラザラッと流し込み、金具で口を留める。市販の解熱鎮痛剤と風邪薬だけでなく、買い置きのスポーツ飲料や冷凍うどん、カップ麺、レトルトのお粥まで常備されていた。
「伊達に大学ん時から一人暮らししてねーよ。ホラ、俺のことはいいから早く支度しろ」
「あ、ああ」
謙太がスーツに着替えて玄関に向かうと、龍之介がいつものように見送りに来た。
「洗濯とか明日まとめてやるから寝てろよ」
「うん、おまえが行ったらな」
「仕事すんなよ」
「メールチェックだけ」
「ダメだ」
「……わーったよ」
「出来るだけ早く帰るから」
「もう、遅刻すんぞ!!」
両手を広げて見送りのハグを要求すると、龍之介は渋々腕の中に収まった。やはり熱い。
後ろ髪引かれる思いで謙太は家を出た。
アラーム音が寝室内に響き渡る。
布団の中から手を伸ばし、ヘッドボードに置かれた目覚まし時計を捕まえてスイッチを切ると、謙太は上半身を起こした。
遮光カーテンの隙間から射し込む光が室内を少しだけ明るく照らしている。隣を見れば、背中を向けて眠る龍之介の姿があった。昨夜のことを思い出し、口元を緩める。
「リュウ、朝だぞー」
「んん……」
謙太は一度寝たら起きない代わりに目覚めがいい。龍之介は眠りが浅く、寝起きはやや悪い。
なかなか起きない同居人の肩に手を置き、軽く揺すってみる。だが、身じろぎするだけで全然目を覚ます気配がない。普段より寝起きが悪く感じた。
「襲っちまうぞー!」
フザけてそう声を掛けると、さっきまでの様子が嘘のように龍之介が飛び起きた。そして、警戒するようにじりじりと身体を離す。
「おはよ」
「……おはよう」
「あれ? 顔赤くね?」
「え」
謙太は龍之介の顔を覗き込み、そっと額に触れた。汗ばんだ額から手のひらに熱さが伝わる。
「リュウ、熱あるぞ」
「言われてみれば、ちょっとダルいかも」
指摘されて初めて龍之介は身体の不調を自覚した。
発熱、喉の痛み、倦怠感。典型的な風邪の引き始めの症状だ。体温計で測ってみると三十八度。まだ上がる可能性がある。
朝食をとりながら、謙太は向かいに座る龍之介の様子を窺った。食欲はあるが、起きているのが辛そうに見える。
「リュウ、オレ休もうか」
「ばか。この前たくさん有休使ったばっかだろ。こんなことくらいで使うな」
「でも」
「慣れてるから」
そう言って、龍之介は棚から氷枕を取り出した。冷凍庫の氷をザラザラッと流し込み、金具で口を留める。市販の解熱鎮痛剤と風邪薬だけでなく、買い置きのスポーツ飲料や冷凍うどん、カップ麺、レトルトのお粥まで常備されていた。
「伊達に大学ん時から一人暮らししてねーよ。ホラ、俺のことはいいから早く支度しろ」
「あ、ああ」
謙太がスーツに着替えて玄関に向かうと、龍之介がいつものように見送りに来た。
「洗濯とか明日まとめてやるから寝てろよ」
「うん、おまえが行ったらな」
「仕事すんなよ」
「メールチェックだけ」
「ダメだ」
「……わーったよ」
「出来るだけ早く帰るから」
「もう、遅刻すんぞ!!」
両手を広げて見送りのハグを要求すると、龍之介は渋々腕の中に収まった。やはり熱い。
後ろ髪引かれる思いで謙太は家を出た。
0
お付き合いはお試しセックスの後で。
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています

雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる