【完結】君を繋ぎとめるためのただひとつの方法

みやこ嬢

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追加エピソード

第27話:風邪 1

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*同居開始~本編最終話ラストに至る迄の物語*


 アラーム音が寝室内に響き渡る。
 布団の中から手を伸ばし、ヘッドボードに置かれた目覚まし時計を捕まえてスイッチを切ると、謙太けんたは上半身を起こした。

 遮光カーテンの隙間から射し込む光が室内を少しだけ明るく照らしている。隣を見れば、背中を向けて眠る龍之介りゅうのすけの姿があった。昨夜のことを思い出し、口元を緩める。

「リュウ、朝だぞー」
「んん……」

 謙太は一度寝たら起きない代わりに目覚めがいい。龍之介は眠りが浅く、寝起きはやや悪い。

 なかなか起きない同居人の肩に手を置き、軽く揺すってみる。だが、身じろぎするだけで全然目を覚ます気配がない。普段より寝起きが悪く感じた。

「襲っちまうぞー!」

 フザけてそう声を掛けると、さっきまでの様子が嘘のように龍之介が飛び起きた。そして、警戒するようにじりじりと身体を離す。

「おはよ」
「……おはよう」
「あれ? 顔赤くね?」
「え」

 謙太は龍之介の顔を覗き込み、そっと額に触れた。汗ばんだ額から手のひらに熱さが伝わる。

「リュウ、熱あるぞ」
「言われてみれば、ちょっとダルいかも」

 指摘されて初めて龍之介は身体の不調を自覚した。
 発熱、喉の痛み、倦怠感。典型的な風邪の引き始めの症状だ。体温計で測ってみると三十八度。まだ上がる可能性がある。

 朝食をとりながら、謙太は向かいに座る龍之介の様子を窺った。食欲はあるが、起きているのが辛そうに見える。

「リュウ、オレ休もうか」
「ばか。この前たくさん有休使ったばっかだろ。こんなことくらいで使うな」
「でも」
「慣れてるから」

 そう言って、龍之介は棚から氷枕を取り出した。冷凍庫の氷をザラザラッと流し込み、金具で口を留める。市販の解熱鎮痛剤と風邪薬だけでなく、買い置きのスポーツ飲料や冷凍うどん、カップ麺、レトルトのお粥まで常備されていた。

「伊達に大学ん時から一人暮らししてねーよ。ホラ、俺のことはいいから早く支度しろ」
「あ、ああ」

 謙太がスーツに着替えて玄関に向かうと、龍之介がいつものように見送りに来た。

「洗濯とか明日まとめてやるから寝てろよ」
「うん、おまえが行ったらな」
「仕事すんなよ」
「メールチェックだけ」
「ダメだ」
「……わーったよ」
「出来るだけ早く帰るから」
「もう、遅刻すんぞ!!」

 両手を広げて見送りのハグを要求すると、龍之介は渋々腕の中に収まった。やはり熱い。

 後ろ髪引かれる思いで謙太は家を出た。
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