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追加エピソード
第18話:嫉妬
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*同居開始~本編最終話ラストに至る迄の物語*
表面上はいつも通りを装いながら、二人はダイニングテーブルに向かい合わせで座って朝食を食べていた。
今日の天気やテレビのニュースの話題を振ってはみるものの、あまり会話は弾まない。互いに意識をし過ぎたまま、謙太の出勤時刻となった。
「いってくる」
「気をつけてな」
ゴミ袋を持った玄関先で見送り、ドアが閉まった後、龍之介はその場に座り込んで溜め息をついた。
「……関係を変えるって、結局何をどーすればいいんだよ」
妹から貰った助言を何度も反芻して考える。今が永遠に続く保証はない。安心するためにはどうすべきか。
解決方法は未だに見つかっていない。
一方、うつろな表情でマンションのゴミ置き場に立ち寄る謙太に、管理人の小千谷が声を掛けた。
「おはようございます、雨戸さん」
「あ、小千谷さん」
作業服姿の管理人は今朝も早くからマンションの周囲を箒で掃き清めていた。こうしてエントランスから出て行く入居者に声を掛け、交流を持つのが小千谷の楽しみでもある。
「なんだか浮かない顔ですね?」
「いやー、ちょっと悩みが」
謙太は、人の良い管理人と話すのが好きだった。決して深くは踏み込まず、時々さらりと的を射た事を言ってくれるからだ。
悩みがあると聞いて、小千谷はふむ、と首を傾げた。ここで詳しく内容を尋ねてこないのが彼の良いところである。
「お一人で解決出来そうなことですか」
「一人……では無理、かな?」
「では、力を貸してくれそうな人に腹を割って相談するしかないですねぇ」
「……ですね」
そんな相手、一人しかいない。
「ああ、そうだ。最近この辺りに不審者が出るらしいんで、お帰りの時は気を付けてくださいね」
「わかりました、気を付けます」
礼を言ってから謙太は会社に向かった。その表情は先ほどより少しだけ明るくなっていた。
その夜、龍之介はいつもより手の込んだ夕食を作って謙太の帰りを待っていた。色々考え過ぎたせいで仕事に身が入らず、ずっとキッチンに立ってひたすら鍋の灰汁を掬っていた。
『今から駅出る』と言うメールを見て、コップや皿を出して準備を進める。
普段なら、このメールから十五分ほどで着くはずなのに、この日は少し遅かった。何かあったのかと思っていると、玄関のドアの向こう側から足音が聞こえてきた。
しかし、足音は一人分ではなかった。
何となくドアに近付いて気配を探ると、片方は謙太で、もう片方は若い女性のようだった。
「すみません、助かりました~!」
「いや、困った時はお互い様なんで」
「本当にありがとうございました。じゃあ、また」
そんな会話が聞こえてきた。
恐らく同じ階の住人の女性だろう。何度も謙太に礼を言っている。
「ただいま」
「……おかえり」
何故か龍之介の声には棘があった。
向かい合って夕食を食べながら、先ほどのことを尋ねてみる。
「なんかあったのか?」
「駅から変な男につけられてるって言うから一緒に帰ってきた」
「……そういや、エントランスに変質者注意の張り紙があったな」
「あー多分それ。朝、小千谷さんが言ってたやつだ」
お人好しの謙太のことだ。帰り道の途中で困っている女性を見兼ねて声を掛けたんだろう。
ちなみに、管理人を名前で呼んでいるのは謙太だけだ。一番付き合いが浅い癖に一番馴染んでいる。
「リュウも外に出る時は気を付けろよ」
「……俺は成人済みの男なんだが???」
少しだけモヤモヤした気持ちを抱えたまま、龍之介は悪態をついた。
表面上はいつも通りを装いながら、二人はダイニングテーブルに向かい合わせで座って朝食を食べていた。
今日の天気やテレビのニュースの話題を振ってはみるものの、あまり会話は弾まない。互いに意識をし過ぎたまま、謙太の出勤時刻となった。
「いってくる」
「気をつけてな」
ゴミ袋を持った玄関先で見送り、ドアが閉まった後、龍之介はその場に座り込んで溜め息をついた。
「……関係を変えるって、結局何をどーすればいいんだよ」
妹から貰った助言を何度も反芻して考える。今が永遠に続く保証はない。安心するためにはどうすべきか。
解決方法は未だに見つかっていない。
一方、うつろな表情でマンションのゴミ置き場に立ち寄る謙太に、管理人の小千谷が声を掛けた。
「おはようございます、雨戸さん」
「あ、小千谷さん」
作業服姿の管理人は今朝も早くからマンションの周囲を箒で掃き清めていた。こうしてエントランスから出て行く入居者に声を掛け、交流を持つのが小千谷の楽しみでもある。
「なんだか浮かない顔ですね?」
「いやー、ちょっと悩みが」
謙太は、人の良い管理人と話すのが好きだった。決して深くは踏み込まず、時々さらりと的を射た事を言ってくれるからだ。
悩みがあると聞いて、小千谷はふむ、と首を傾げた。ここで詳しく内容を尋ねてこないのが彼の良いところである。
「お一人で解決出来そうなことですか」
「一人……では無理、かな?」
「では、力を貸してくれそうな人に腹を割って相談するしかないですねぇ」
「……ですね」
そんな相手、一人しかいない。
「ああ、そうだ。最近この辺りに不審者が出るらしいんで、お帰りの時は気を付けてくださいね」
「わかりました、気を付けます」
礼を言ってから謙太は会社に向かった。その表情は先ほどより少しだけ明るくなっていた。
その夜、龍之介はいつもより手の込んだ夕食を作って謙太の帰りを待っていた。色々考え過ぎたせいで仕事に身が入らず、ずっとキッチンに立ってひたすら鍋の灰汁を掬っていた。
『今から駅出る』と言うメールを見て、コップや皿を出して準備を進める。
普段なら、このメールから十五分ほどで着くはずなのに、この日は少し遅かった。何かあったのかと思っていると、玄関のドアの向こう側から足音が聞こえてきた。
しかし、足音は一人分ではなかった。
何となくドアに近付いて気配を探ると、片方は謙太で、もう片方は若い女性のようだった。
「すみません、助かりました~!」
「いや、困った時はお互い様なんで」
「本当にありがとうございました。じゃあ、また」
そんな会話が聞こえてきた。
恐らく同じ階の住人の女性だろう。何度も謙太に礼を言っている。
「ただいま」
「……おかえり」
何故か龍之介の声には棘があった。
向かい合って夕食を食べながら、先ほどのことを尋ねてみる。
「なんかあったのか?」
「駅から変な男につけられてるって言うから一緒に帰ってきた」
「……そういや、エントランスに変質者注意の張り紙があったな」
「あー多分それ。朝、小千谷さんが言ってたやつだ」
お人好しの謙太のことだ。帰り道の途中で困っている女性を見兼ねて声を掛けたんだろう。
ちなみに、管理人を名前で呼んでいるのは謙太だけだ。一番付き合いが浅い癖に一番馴染んでいる。
「リュウも外に出る時は気を付けろよ」
「……俺は成人済みの男なんだが???」
少しだけモヤモヤした気持ちを抱えたまま、龍之介は悪態をついた。
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