【完結】君を繋ぎとめるためのただひとつの方法

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
50 / 86
追加エピソード

第16話:唯一無二

しおりを挟む
*同居開始~本編最終話ラストに至る迄の物語*


 風呂から上がり、少し気不味い気持ちでリビングに戻ると、テレビを見ていた龍之介りゅうのすけが顔を上げた。

「ね、寝る?」
「ん」

 いつものやり取りのはずなのに、何故か緊張して声がうわずってしまう。幸い龍之介は早く眠りたいからか、細かいことには気付いていない。

 連れ立って寝室に入り、同じベッドに入る。
 先程のこともあって、謙太けんたは端のほうで横になった。新しいベッドは広い。端に寄れば、間には大人一人分の隙間が出来る。

「なんでそんな隅っこで寝んの」
「……なんとなく」
「ふぅん?」

 そう尋ねながら、龍之介は既に寝落ちそうになっていた。昨夜は離れて眠る練習をするために仕事部屋で寝ようとして失敗し、結局数時間しか眠れていないのだ。早く眠りたくて謙太の帰りを待ち侘びていた。

 今にも寝そうな龍之介を横目に見ながら、謙太は小さく息をついた。
 親友で興奮して勃った事実が後ろめたくて、龍之介をまともに見られなくなった。何故今まで平気でいられたのか分からなくなるほど意識してしまう。
 
 数時間しか眠れていないのは同じなのに、謙太は寝付けずにいた。飲み会の酔いもすっかり醒めている。

 すうすうと規則正しい寝息が聞こえてくるまでにそう長くは掛からなかった。完全に龍之介が眠ったのを確認してから、謙太はそっとベッドから降りた。音を立てないように寝室を出てリビングのソファーに座り込み、頭を抱える。

「……あー、ダメだ。寝れん」

 あの件以降、龍之介と一緒の時だけ安眠できた。それは、自分は一人じゃないと安心できたからだ。文句を言いながらも必ず謙太を助けてくれる。友人はたくさんいるが、本当に困った時に頼れる存在は龍之介だけ。

 唯一無二の親友。

 その大事な親友相手に欲情してしまった。

 ただでさえも個人的な面倒ごとに巻き込み、その後もこうしてマンションに転がり込んで迷惑を掛けている。今はお互いの利害が一致しているから許されているが、流石にコレは駄目だ。

 幸い仕事部屋にもベッドがある。
 今夜はそこで過ごそうかと思った時、寝室の扉がバン!と勢いよく開いた。

「り、リュウ」

 眠そうな目を擦りながら、龍之介が起きてきた。隣にいたはずの謙太がいないことに気付いたのだろう。不機嫌そうにソファーに座る謙太を見下ろしている。

「……何やってんだ」
「いや」
「頭が痛いのか?」
「う、うん」

 頭を抱えているからそう見えたようだ。正直に言うわけにもいかず、謙太は龍之介の言葉を肯定した。

「飲み過ぎだ、ばぁか」

 鼻で笑いながらも、龍之介は引き出しから薬を取り出し、謙太に差し出した。鎮痛剤かと思ったら湿布薬の箱だ。どうやら寝ボケて間違えたようだ。そんな状態なのに気遣ってくれたことが嬉しくて、間違いを指摘せず、礼を言ってから台所で飲むふりをした。

「ほら、早く寝るぞ」

 手を引かれて寝室に連れ戻される。
 いつもは一緒に寝ることを避けたがっている龍之介の真逆の行動に謙太は動揺を隠せなかった。せめて再び端で寝ようとするが、ベッドに入ってからも龍之介は離れない。身体を強張らせる謙太の顔を覗き込む。

「まだ痛むのか?」
「あ、ああ」
「よしよし、大丈夫だからな」

 そう言って正面から謙太の身体を抱き、龍之介は頭を優しく撫でた。そして、そのまますぐに寝入ってしまった。

 昼間甥っ子を預かっていた影響で子どもをあやすような口調になっている。そうとは知らない謙太はただ驚くばかりだったが、体温の心地良さに負けて眠りについた。
しおりを挟む
《 最新作!大学生同士のえっちな純愛 》
お付き合いはお試しセックスの後で。
感想 37

あなたにおすすめの小説

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

処理中です...