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第16話:唯一無二
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*同居開始~本編最終話ラストに至る迄の物語*
風呂から上がり、少し気不味い気持ちでリビングに戻ると、テレビを見ていた龍之介が顔を上げた。
「ね、寝る?」
「ん」
いつものやり取りのはずなのに、何故か緊張して声がうわずってしまう。幸い龍之介は早く眠りたいからか、細かいことには気付いていない。
連れ立って寝室に入り、同じベッドに入る。
先程のこともあって、謙太は端のほうで横になった。新しいベッドは広い。端に寄れば、間には大人一人分の隙間が出来る。
「なんでそんな隅っこで寝んの」
「……なんとなく」
「ふぅん?」
そう尋ねながら、龍之介は既に寝落ちそうになっていた。昨夜は離れて眠る練習をするために仕事部屋で寝ようとして失敗し、結局数時間しか眠れていないのだ。早く眠りたくて謙太の帰りを待ち侘びていた。
今にも寝そうな龍之介を横目に見ながら、謙太は小さく息をついた。
親友で興奮して勃った事実が後ろめたくて、龍之介をまともに見られなくなった。何故今まで平気でいられたのか分からなくなるほど意識してしまう。
数時間しか眠れていないのは同じなのに、謙太は寝付けずにいた。飲み会の酔いもすっかり醒めている。
すうすうと規則正しい寝息が聞こえてくるまでにそう長くは掛からなかった。完全に龍之介が眠ったのを確認してから、謙太はそっとベッドから降りた。音を立てないように寝室を出てリビングのソファーに座り込み、頭を抱える。
「……あー、ダメだ。寝れん」
あの件以降、龍之介と一緒の時だけ安眠できた。それは、自分は一人じゃないと安心できたからだ。文句を言いながらも必ず謙太を助けてくれる。友人はたくさんいるが、本当に困った時に頼れる存在は龍之介だけ。
唯一無二の親友。
その大事な親友相手に欲情してしまった。
ただでさえも個人的な面倒ごとに巻き込み、その後もこうしてマンションに転がり込んで迷惑を掛けている。今はお互いの利害が一致しているから許されているが、流石にコレは駄目だ。
幸い仕事部屋にもベッドがある。
今夜はそこで過ごそうかと思った時、寝室の扉がバン!と勢いよく開いた。
「り、リュウ」
眠そうな目を擦りながら、龍之介が起きてきた。隣にいたはずの謙太がいないことに気付いたのだろう。不機嫌そうにソファーに座る謙太を見下ろしている。
「……何やってんだ」
「いや」
「頭が痛いのか?」
「う、うん」
頭を抱えているからそう見えたようだ。正直に言うわけにもいかず、謙太は龍之介の言葉を肯定した。
「飲み過ぎだ、ばぁか」
鼻で笑いながらも、龍之介は引き出しから薬を取り出し、謙太に差し出した。鎮痛剤かと思ったら湿布薬の箱だ。どうやら寝ボケて間違えたようだ。そんな状態なのに気遣ってくれたことが嬉しくて、間違いを指摘せず、礼を言ってから台所で飲むふりをした。
「ほら、早く寝るぞ」
手を引かれて寝室に連れ戻される。
いつもは一緒に寝ることを避けたがっている龍之介の真逆の行動に謙太は動揺を隠せなかった。せめて再び端で寝ようとするが、ベッドに入ってからも龍之介は離れない。身体を強張らせる謙太の顔を覗き込む。
「まだ痛むのか?」
「あ、ああ」
「よしよし、大丈夫だからな」
そう言って正面から謙太の身体を抱き、龍之介は頭を優しく撫でた。そして、そのまますぐに寝入ってしまった。
昼間甥っ子を預かっていた影響で子どもをあやすような口調になっている。そうとは知らない謙太はただ驚くばかりだったが、体温の心地良さに負けて眠りについた。
風呂から上がり、少し気不味い気持ちでリビングに戻ると、テレビを見ていた龍之介が顔を上げた。
「ね、寝る?」
「ん」
いつものやり取りのはずなのに、何故か緊張して声がうわずってしまう。幸い龍之介は早く眠りたいからか、細かいことには気付いていない。
連れ立って寝室に入り、同じベッドに入る。
先程のこともあって、謙太は端のほうで横になった。新しいベッドは広い。端に寄れば、間には大人一人分の隙間が出来る。
「なんでそんな隅っこで寝んの」
「……なんとなく」
「ふぅん?」
そう尋ねながら、龍之介は既に寝落ちそうになっていた。昨夜は離れて眠る練習をするために仕事部屋で寝ようとして失敗し、結局数時間しか眠れていないのだ。早く眠りたくて謙太の帰りを待ち侘びていた。
今にも寝そうな龍之介を横目に見ながら、謙太は小さく息をついた。
親友で興奮して勃った事実が後ろめたくて、龍之介をまともに見られなくなった。何故今まで平気でいられたのか分からなくなるほど意識してしまう。
数時間しか眠れていないのは同じなのに、謙太は寝付けずにいた。飲み会の酔いもすっかり醒めている。
すうすうと規則正しい寝息が聞こえてくるまでにそう長くは掛からなかった。完全に龍之介が眠ったのを確認してから、謙太はそっとベッドから降りた。音を立てないように寝室を出てリビングのソファーに座り込み、頭を抱える。
「……あー、ダメだ。寝れん」
あの件以降、龍之介と一緒の時だけ安眠できた。それは、自分は一人じゃないと安心できたからだ。文句を言いながらも必ず謙太を助けてくれる。友人はたくさんいるが、本当に困った時に頼れる存在は龍之介だけ。
唯一無二の親友。
その大事な親友相手に欲情してしまった。
ただでさえも個人的な面倒ごとに巻き込み、その後もこうしてマンションに転がり込んで迷惑を掛けている。今はお互いの利害が一致しているから許されているが、流石にコレは駄目だ。
幸い仕事部屋にもベッドがある。
今夜はそこで過ごそうかと思った時、寝室の扉がバン!と勢いよく開いた。
「り、リュウ」
眠そうな目を擦りながら、龍之介が起きてきた。隣にいたはずの謙太がいないことに気付いたのだろう。不機嫌そうにソファーに座る謙太を見下ろしている。
「……何やってんだ」
「いや」
「頭が痛いのか?」
「う、うん」
頭を抱えているからそう見えたようだ。正直に言うわけにもいかず、謙太は龍之介の言葉を肯定した。
「飲み過ぎだ、ばぁか」
鼻で笑いながらも、龍之介は引き出しから薬を取り出し、謙太に差し出した。鎮痛剤かと思ったら湿布薬の箱だ。どうやら寝ボケて間違えたようだ。そんな状態なのに気遣ってくれたことが嬉しくて、間違いを指摘せず、礼を言ってから台所で飲むふりをした。
「ほら、早く寝るぞ」
手を引かれて寝室に連れ戻される。
いつもは一緒に寝ることを避けたがっている龍之介の真逆の行動に謙太は動揺を隠せなかった。せめて再び端で寝ようとするが、ベッドに入ってからも龍之介は離れない。身体を強張らせる謙太の顔を覗き込む。
「まだ痛むのか?」
「あ、ああ」
「よしよし、大丈夫だからな」
そう言って正面から謙太の身体を抱き、龍之介は頭を優しく撫でた。そして、そのまますぐに寝入ってしまった。
昼間甥っ子を預かっていた影響で子どもをあやすような口調になっている。そうとは知らない謙太はただ驚くばかりだったが、体温の心地良さに負けて眠りについた。
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お付き合いはお試しセックスの後で。
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