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追加エピソード
第6話:離婚
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*同居開始~本編最終話ラストに至る迄のお話*
「明日、寧花と会ってくる」
「仕事は?」
「午後休貰った」
「ふーん」
一緒に夕食をとりながら、謙太が話を切り出した。それを聞いて、龍之介は目線だけで目の前でみそ汁を飲む同居人を見た。
一緒に暮らし始めて約一ヶ月。
その間にも、謙太は寧花やあちらの家族、弁護士と電話やメールでの話し合いを続けていた。陽色の今後のこともある。
話し合い次第では、ここからの復縁も有り得る。だから、明日会ってくると聞いて、もしかしたらと龍之介は思っていた。
しかし、そうはならなかった。
「二人で離婚届出してくるよ」
「……そっか」
仲違いして別れるわけではない。関係に区切りをつけるため、二人で納得した上で届けを出すように、という弁護士からの提案である。手続きに必要な書類も既に準備済みだという。
「明日は思い切り酒飲みたい」
「金曜だしな。たまには朝まで飲むか?」
「ははっ。じゃあ色々買って帰る」
市役所近くの喫茶店、その奥のほうにある席に向かい合って座る謙太と寧花。テーブルの上には先ほど運ばれてきたコーヒーと寧花が持参した大きめの封筒が置かれている。
「弁護士さんに確認してもらったから不備はないと思うけど、提出する前に一応見ておいて」
「わかった」
封筒の中身は離婚届だ。
一ヶ月前の話し合いの時、謙太は先に記入を済ませている。その後で寧花が必要事項を記入した。他にも色々な手続きをしなくてはならないが、今日はとにかく離婚が目的だ。
「で、そっちはどう?」
「うーん……彼は問題ないんだけど、あっちのご両親がちょっとね。抵抗あるみたい」
「まあ、そうだよな」
陽色の本当の父親である元彼自身は寧花と復縁して結婚したいと思っている。しかし、彼の親はすぐには納得出来ないらしい。突然息子に子どもがいて、その母親はつい最近まで他の男と結婚してたなんて言われたら、すんなり受け入れられるはずがない。
「会わせるうちにだんだん態度が軟化してるから、陽色は大丈夫だと思う」
「可愛い盛りだもんな」
「でも、私とはやっぱりギクシャクしちゃう。謙太さんのご両親みたいにはいかないかも」
「そうか」
これについては、謙太はやや責任を感じていた。
「……ごめん。あの時、俺がすぐプロポーズしなきゃ元彼んとこに行けたかもしんないのに」
交際一ヶ月半での妊娠報告に迷わず結婚を決めたのは謙太だ。少しも疑うことなく寧花とお腹の子を受け入れた。
「そんなことない。あの時の私はかなり思い詰めてたし、謙太さんに拒絶されていたら元彼のところに戻らずに一人で産むか、……たぶん中絶してたと思う」
もちろん今は陽色のことを優先して考えているからこそ、元彼に連絡を取ったり相手の両親と話し合ったりしている。陽色の権利を守るためだ。子どもを産む前ならば、そんな勇気すらなかっただろう。
「だから、謙太さんには感謝してるの。陽色がいるのは謙太さんのおかげよ」
真っ直ぐ目を合わせて微笑む寧花に、謙太は目頭が熱くなるのを感じた。
そう言われるまで、寧花に人生の遠回りをさせてしまったと思い込んでいた。過去の自分の選択は間違っていなかったと言われたような気がした。
「……結婚したことに後悔はしてないよ」
「私も」
それでも二人は今日、正式に離婚する。
「明日、寧花と会ってくる」
「仕事は?」
「午後休貰った」
「ふーん」
一緒に夕食をとりながら、謙太が話を切り出した。それを聞いて、龍之介は目線だけで目の前でみそ汁を飲む同居人を見た。
一緒に暮らし始めて約一ヶ月。
その間にも、謙太は寧花やあちらの家族、弁護士と電話やメールでの話し合いを続けていた。陽色の今後のこともある。
話し合い次第では、ここからの復縁も有り得る。だから、明日会ってくると聞いて、もしかしたらと龍之介は思っていた。
しかし、そうはならなかった。
「二人で離婚届出してくるよ」
「……そっか」
仲違いして別れるわけではない。関係に区切りをつけるため、二人で納得した上で届けを出すように、という弁護士からの提案である。手続きに必要な書類も既に準備済みだという。
「明日は思い切り酒飲みたい」
「金曜だしな。たまには朝まで飲むか?」
「ははっ。じゃあ色々買って帰る」
市役所近くの喫茶店、その奥のほうにある席に向かい合って座る謙太と寧花。テーブルの上には先ほど運ばれてきたコーヒーと寧花が持参した大きめの封筒が置かれている。
「弁護士さんに確認してもらったから不備はないと思うけど、提出する前に一応見ておいて」
「わかった」
封筒の中身は離婚届だ。
一ヶ月前の話し合いの時、謙太は先に記入を済ませている。その後で寧花が必要事項を記入した。他にも色々な手続きをしなくてはならないが、今日はとにかく離婚が目的だ。
「で、そっちはどう?」
「うーん……彼は問題ないんだけど、あっちのご両親がちょっとね。抵抗あるみたい」
「まあ、そうだよな」
陽色の本当の父親である元彼自身は寧花と復縁して結婚したいと思っている。しかし、彼の親はすぐには納得出来ないらしい。突然息子に子どもがいて、その母親はつい最近まで他の男と結婚してたなんて言われたら、すんなり受け入れられるはずがない。
「会わせるうちにだんだん態度が軟化してるから、陽色は大丈夫だと思う」
「可愛い盛りだもんな」
「でも、私とはやっぱりギクシャクしちゃう。謙太さんのご両親みたいにはいかないかも」
「そうか」
これについては、謙太はやや責任を感じていた。
「……ごめん。あの時、俺がすぐプロポーズしなきゃ元彼んとこに行けたかもしんないのに」
交際一ヶ月半での妊娠報告に迷わず結婚を決めたのは謙太だ。少しも疑うことなく寧花とお腹の子を受け入れた。
「そんなことない。あの時の私はかなり思い詰めてたし、謙太さんに拒絶されていたら元彼のところに戻らずに一人で産むか、……たぶん中絶してたと思う」
もちろん今は陽色のことを優先して考えているからこそ、元彼に連絡を取ったり相手の両親と話し合ったりしている。陽色の権利を守るためだ。子どもを産む前ならば、そんな勇気すらなかっただろう。
「だから、謙太さんには感謝してるの。陽色がいるのは謙太さんのおかげよ」
真っ直ぐ目を合わせて微笑む寧花に、謙太は目頭が熱くなるのを感じた。
そう言われるまで、寧花に人生の遠回りをさせてしまったと思い込んでいた。過去の自分の選択は間違っていなかったと言われたような気がした。
「……結婚したことに後悔はしてないよ」
「私も」
それでも二人は今日、正式に離婚する。
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お付き合いはお試しセックスの後で。
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