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本編
第20話:別れ
しおりを挟む陽色は謙太の子どもではなかった。
衝撃の告白に、謙太は顔面蒼白となった。思考が完全に停止して、怒ることも嘆くことも出来ない。
唯一冷静だったのは部外者の龍之介だ。何も言えない謙太に代わり、気になっていたことを寧花に尋ねる。
「陽色のこと、何で置いてったの」
棘のある言い方になるのは仕方がない。龍之介は謙太側の人間だ。どうしても謙太に肩入れしてしまう。
「……ゆっくり考える時間が欲しくて。ごめんなさい、纏さんがお世話してくださったんですよね」
「それは別にいいよ。寧花さん、謙太に不満があったんじゃないの?」
「いえ、毎日遅くまでお仕事頑張っていたし。確かに子育てにはあまり関わってくれなかったけど、疲れてるからしょうがないって思ってました」
嗚咽を洩らしながら、寧花は龍之介の問いに答えていく。その間も謙太は茫然としたまま。この会話も耳に入ってはいるが、内容までは理解していないと思われた。
寧花は謙太に不満を抱くどころか感謝すらしていた。父子ではないかもしれないと疑惑を抱いてからは、むしろ申し訳なさを感じていた。精神的にも不安定になっていたはずだ。そうでなければ、父親ではない上に子育て初心者の謙太の元に我が子を置いていくなどしなかっただろう。
「ケンタは鈍いから、黙っておけば一生気付かなかったと思うよ。なんでそうしなかったの」
「……もちろん、それも考えました。でも、私が耐えられそうになくて……。この先ずっと謙太さんに嘘をついていくなんて、とても」
はらはらと涙を流す寧花を見て、龍之介は唇を噛んだ。
彼女が謙太を騙そうとした訳ではないことは理解した。たまたま時期が悪くてそうなってしまったということも。誤魔化すことなく真実を告げたのは彼女が誠実な女性だからだ。
だが、これでは謙太があまりにも──
「今日は陽色を連れに来たんです。もう一緒にはいられないから」
「待っ、待って。陽色を、連れてく?」
ようやく謙太が口を開いた。
震える手をテーブルの向こうの陽色へと伸ばす。寧花の膝に抱かれた陽色は、それに気付いて笑顔で小さな手を差し出してきた。
その手が触れる前に、寧花が陽色を抱き上げて引き離す。
「……本当にごめんなさい」
そのまま寧花は席を立った。後を追うように、謙太も立ち上がった。椅子が倒れ、それに足を取られて転びかけた身体を龍之介が支える。
その間に寧花は母子手帳ケースと抱っこ紐を回収し、玄関へと向かっていた。
「待ってくれ、寧花!」
「また連絡しますから」
引き留める声に振り返ることもなく、寧花は出て行った。玄関のドアが閉まる音が異様に大きく聞こえた。
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お付き合いはお試しセックスの後で。
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