【完結】君を繋ぎとめるためのただひとつの方法

みやこ嬢

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本編

第14話:予期せぬ再会

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 急遽会社に行かねばならなくなった謙太けんたに代わり、龍之介りゅうのすけ陽色ひいろを病院に連れて行くことになった。

 一番近くの小児科が休診日のため、やや遠くの病院にタクシーで向かう。診療開始と同時に到着し、すぐに診てもらう。
 診察結果は風邪の引き始め。恐らく昨日の育児サークルで貰ったのだろうと医師から言われた。
 薬が用意されるのを待合室で待つ。

 陽色は熱がある以外は元気で、抱っこ紐から出たそうにしている。龍之介はゆらゆらと身体を揺らして宥めてやった。
 すると、まだ他に患者がいないからか手の空いた看護師が構いに来てくれた。ついでに気になっていたことを尋ねてみる。

「八ヶ月にしては小さいですかね」
「そうねえ、ちょっと小柄かなーとは思うけど、順調に体重増えてるなら問題ない場合がほとんどですよ」
「検査の結果は異常はなかったんですけど、前の乳児健診で引っ掛かっちゃって」
「ああ~、担当の先生によっては再検査にしちゃうこともあるんですよね」

 少し話した後、次の患者が来たので看護師は診察室の方へ戻っていった。

 市の乳児健診は地域の小児科医が持ち回りで行う。担当医師によって診断にも多少違いがあるということだ。母親からしたらたまったものではないだろう。
 謙太の妻、寧花ねいかもそれで悩んでいた。でも、何故今になって家出をしたのかが分からない。

「あれ、もしかして龍之介くん?」

 ぼんやり考え事をしていたら、後ろから誰かに声を掛けられた。聞き覚えのある声に、龍之介は身体を強張らせ、ゆっくりと振り返る。
 待合室の入り口に若い女性が立っていた。綺麗に手入れされた髪、清楚な化粧とワンピース。そして、腕の中には小さな赤ん坊が抱かれていた。

「……眞耶まや
「その子、龍之介くんの子?」

 眞耶と呼ばれた女性は迷わず龍之介の隣の椅子に腰掛けた。抱っこ紐に収まる陽色の顔を間近で覗きこむ。

「あ、いや。……友達の」
「そう。だと思った」

 予想通りの返答に満足したのか、眞耶はふ、と笑って腕の中の我が子を撫でた。まだ生後三、四ヶ月くらいの乳児だ。

「子ども、生まれたんだな。おめでとう」
「ええ、おかげさまで」

 混んでないせいか、眞耶はすぐ診察室に呼ばれていった。去り際に「こんなところで会うなんて思わなかったわ」と言い残して。

 龍之介もその後すぐに会計で呼ばれたが、眞耶との会話が聞こえていたようで、陽色の保護者ではないとバレて注意されてしまった。

「今回みたいな風邪程度なら代理の方でもいいんですけど、もし処置が必要になった場合はやはり親御さんでないと……」
「そうですよね。すみません」

 薬を受け取ると、龍之介はすぐに病院から出た。呼んだタクシーが到着するまで待合室にいても良かったのだが、あのままあそこにいればまた眞耶と顔を合わせてしまう。

 龍之介には眞耶に会いたくない理由があった。
 正直今の今まで忘れていた。いや、記憶に蓋をして思い出さないようにしていた。





『だと思った』





 先程の彼女の声が何度も繰り返し再生される。安心したような、嘲笑うような声。

「……くそ。なんで今頃……」

 龍之介は手のひらで顔を覆い、小さく悪態をついた。
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