11 / 86
本編
第11話:寧花の悩み
しおりを挟む育児サークルの係員に教えてもらった女性の側に行き、謙太は思い切って声を掛けた。
「あの、はじめまして。陽色の父親です」
「あらァ、ひー君のパパ? どうも、はじめまして~」
緒田さんは人当たりの良さそうな女性だ。彼女の息子は陽色の姿を見つけると嬉しそうに這い寄ってきた。仲が良いのは本当らしい。
「今日ひー君ママは?」
「えっと、ちょっと体調崩してて。なので代わりに連れて来ました」
「良いパパね~! うちのダンナなんて、頼んでも育児サークルなんか来てくれないわよ」
それを聞いて、謙太は苦笑いを浮かべるしか出来なかった。何故なら彼も今朝龍之介から聞くまで、近所の市民館でこういった集まりがあることすら知らなかったのだから。
「お子さん、陽色と同じ月齢なんですか」
「そうよ~今八ヶ月。誕生日も二日違いでね」
「へえ……」
少し離れた場所で遊ぶ様子を眺めていると、緒田さんの子どものほうがひと回り大きいような気がした。
「……うちの陽色が小さいのかな」
謙太の呟きに緒田さんは笑みを消した。
「ひー君ママも気にしてたわ。六ヶ月検診でも身長体重が小さめなのを指摘されてね、病院で検査するって言ってたもの」
「え、知らなかった」
「結局異常はなかったそうだから、パパには言わなかったのかも」
「そうなんですね。いや、最近妻の元気がなかったから、どうしたのかと思って」
「成長は個人差あるからね~。一人目の子どもだから、お医者さんから何か言われたら気にしちゃうわよね~」
更に話をした結果、緒田さんは寧花と連絡先の交換はしていなかった。毎週必ず育児サークルで顔を合わせるのだから特に必要なかったのだろう。
聞き込みの目的は果たせなかったが、寧花が悩みを抱えていたことだけは分かった。
それから一時間ほど遊ばせた後、育児サークルが終了し、謙太は帰路についた。抱っこ紐の再装着は緒田さんが手際良く手伝ってくれた。
マンションに帰ると、まだ龍之介は戻っていなかった。
がらんとした部屋に陽色と二人きりという状況に謙太は慣れていない。とりあえず抱っこ紐を外して陽色を下ろし、ひと息つく。
「……リュウ、早く帰ってこないかなぁ」
自然と洩れた呟きに、謙太は思わず口を覆った。
違うだろう。
帰ってきてほしいのは寧花のはずだ。
それなのに、何故。
ピンポーン。
玄関のチャイムの音にビクッと体を揺らし、慌ててインターホンを確認する。そして、モニター画面に映し出された見慣れた友人の姿に、謙太はホッと表情を緩めた。
「合い鍵渡しただろ! 勝手に入ってこいよ」
「そーゆーわけにはいかないだろ」
玄関のドアを開けて出迎えると、大きな旅行カバンを抱えた龍之介が立っていた。
彼の家までの距離を考えれば、帰って荷物をまとめ、すぐに戻ってきてくれたのだと分かった。謙太は嬉しくなって、龍之介の手から旅行カバンを奪い取ってリビングまで運んだ。
「昼メシどーすっか」
「駅で弁当買ってきた」
「マジか。やった!」
「陽色はおかゆな。冷凍庫にストックあったから、それ使わせてもらおう」
しかし、部屋に入るなり龍之介の表情が変わった。
「……おまえ、出先でオムツ替えた?」
「あ、替えてない」
「陽色うんち漏れてるぞ。服まで濡れてる」
「え? ……ああーッ! ホントだ!!」
弁当にありつけたのは陽色の着替えと部屋の換気を済ませてからだった。
0
お付き合いはお試しセックスの後で。
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています

雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる