8 / 86
本編
第8話:夜明けの寝室
しおりを挟む明け方、カーテンの隙間から光が差し込み始めた時間に龍之介は目を覚ました。
普段ならまだ起きる時間ではない。遠くから聞こえる声に反応して覚醒したのだ。
うー、うー、と唸るような小さな声。
するりと布団から抜け出し、寝室へと向かう。薄暗い室内にはダブルベッドがあり、その隣にくっつけるようにしてベビーベッドが設置されている。覗き込むと、赤ん坊が布団から抜け出し、ベッドの柵を掴んで立とうとしていた。
「陽色」
龍之介が声を掛けると、陽色はビクッと身体を揺らし、柵を掴んでいた手を離してしまった。ぽすんと布団の上に尻餅をつく。そして、不安そうな目で龍之介を見上げた。
「……いきなり知らん人から話しかけられたらビビるよな」
昨夜は龍之介が駆け付ける前から眠っていたのだ。起きている状態で顔を合わせるのはこれが初めて。人見知りされて当然だ。
「おい、陽色起きたぞ。起きろ」
「うーん……」
ベッド脇に腰掛け、まだ眠る謙太の肩を揺する。しかし、全く起きる気配がない。
「ケンタ」
「んん……あと三十分……」
「おいフザけんな」
最終手段で掛け布団を引っぺがして頬を叩くと、謙太はようやく目を開けた。枕元のスマホで時間を確認するなり、眉を寄せて溜め息をつく。
「なんだよ……まだ五時じゃん」
「陽色が起きてんの。俺まだ懐かれてないから、おまえが相手しろ」
「まじか」
「一応ミルク用意してくる。その間抱っことかしてろよ。寝そうだったら寝かしても構わんから」
「わ、わかった」
龍之介がキッチンで湯を沸かす間、謙太は陽色を抱き上げてあやしてやった。
普段あまり面倒を見ていなかったとはいえ、陽色にとっては父親だ。まったく警戒することなく抱っこされている。それでも、時折キョロキョロと辺りを見回すような動きがみられた。おそらく母親の姿を探しているのだろう。
「ママ、早く帰ってくるといいなぁ」
謙太の呟きはキッチンまで届いた。ミルクの温度を調整しながら、龍之介も完全に同意した。
早く起きること自体には抵抗ないが、自分の都合と関係なく起こされるというのは意外とキツい。正直まだ眠い。
適温になった哺乳瓶を持って寝室に戻ると、謙太がベッドに腰掛けた状態で陽色を抱っこしているところだった。ゆらゆらと身体を左右に揺らしながら陽色を愛おしそうに見つめる姿に、龍之介は声を掛けるのを忘れてしまった。
「ん~、やっぱ寝ないな~。……リュウ?」
「……あ。ミルク出来たぞ」
「サンキュ」
哺乳瓶を受け取り、温度を確かめてから陽色の口元に吸い口を寄せる。すると、喉が渇いていたのか腹が減っていたのか、陽色はごくごくと飲み始めた。その様子に、二人はホッと息をついた。
謙太の隣に腰掛け、龍之介はミルクを飲む陽色の顔を覗きこんだ。安心した様子で謙太の腕の中におさまる幼子を見ていると自然と頬が緩む。
「おまえも父親なんだなあ」
「今までなんだと思ってたんだよ」
「…………クズ?」
「想像以上にディスられてる!」
哺乳瓶に半分ほど作ったミルクはすぐに飲み干された。縦に抱っこしてげっぷをさせてからオムツを交換し、再び寝かし付ける。
しかし、昨晩早くから寝ていたせいか陽色は二度寝する気配を見せず、そのままリビングに移って遊び始めた。
「……これは地味にツラいな」
「うん」
0
お付き合いはお試しセックスの後で。
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています

雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる