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本編
第7話:慣れない布団
しおりを挟む風呂も済ませ、さあ寝るぞという段階で再び謙太が駄々をこね始めた。
「陽色のベビーベッド、隣の寝室にあるんだけど」
「そうだな」
「おまえの布団はリビングに敷く予定だけど、そうなるとオレひとりで陽色と同じ部屋ってことにならねえ?」
「そうなるな」
「無理無理無理! リュウも寝室で寝よ!」
「寝るかアホーーーー!!」
寝室に客用布団を敷くスペースはない。それでも寝室で寝ると言うことは、夫婦用のベッドを使うことになる。さすがにそれはマズいだろう、と龍之介は断固拒否した。
謙太の妻の寧花も、夫の友人とはいえ他人が自分のベッドで寝てたら不快に思うに違いない。
これ以上寧花から減点されるようなことがあれば、謙太を待つのは『離婚』のみ。幼い子どもがいるのだから、それだけは回避しなくては。
しかし、一旦眠ると朝まで絶対起きない謙太と陽色を二人きりにするのもマズい。もし夜泣きしたとしても謙太は気付かず、陽色が喉を枯らしてしまう。
「どうせ隣の部屋なんだし、寝室のドア開けとけば良くね?」
「え、そんだけ???」
「何が不服なんだよ。これなら泣き声も聞こえるし、なんかあったら俺がおまえを起こすから」
「……うーん、じゃあそれで」
謙太はようやく納得して、客用布団をクローゼットから引っ張り出してきた。その間、龍之介はローテーブルや座椅子を端に寄せる。リビングの片隅、寝室側に龍之介の寝床が整った。
龍之介がこのマンションに到着したのが夜の九時半。そこから話をしたり食事や風呂を済ませ、色々あってもうすぐ日付けが変わる頃だ。
幸い、あれから陽色は一度も起きていない。
うまくいけば朝まで寝てくれるだろうが、腹を空かせて夜中に起きる可能性もある。
念のためキッチンを確認し、粉ミルクや哺乳瓶、ポットを確認しておく。(ちなみに、謙太は哺乳瓶の場所を把握していなかった)
「んじゃ寝るか。明日朝イチで会社に連絡するんだぞ」
「わかった」
「はよ寝室行けよ」
「えー……久しぶりに会ったんだし、もっと話そうぜ」
そう言って謙太はリビングに居座ろうとした。敷いたばかりの客用布団の上に座り込み、人懐こい眼で龍之介を見てニコニコしている。
「ばぁか。育児は眠れる時に寝ておくのが基本なんだよ。朝まで眠れると思うな」
「エッ……なんか今のセリフやらしい」
「いいから寝ろ! あっち行け!!」
「ちぇ~」
なんとか謙太を寝室に向かわせ、龍之介もリビングの電気を消した。夜中でも足元が見えるように、玄関付近とトイレ前通路のライトだけ点けておく。
布団に入り、寝転がってスマホを見ると、もう日付けが変わっていた。慣れない環境でなかなか寝付けずにいると、十分も経たないうちに寝室から謙太の寝息が聞こえてきた。
「こんなことになったってのに図太いな」
取り乱してはいたが、謙太はまだ事態の深刻さを理解していない。どちらかといえば、龍之介のほうが先々のことを考えて胃が痛くなっているくらいだ。
「……人の気も知らないで」
謙太の寝息を聞きながら、龍之介は布団に包まった。
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お付き合いはお試しセックスの後で。
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