3 / 86
本編
第3話:自覚が無さ過ぎる男
しおりを挟む育児に無関心かつ不参加だった謙太は奥さんに見限られ、家出された。これは完全に自業自得である。しかし、一歳に満たない赤ん坊を置いていくとはどういうことなのか。
寝室にあるベビーベッドに子どもを寝かせ、隣のリビングで再度聞き取りをする。
「寧花さん、専業主婦だったっけ」
「うん」
「じゃあ昼間、保育園とかは」
「通ってないと思う」
謙太はまったく当てにならない。
許可を得てから龍之介は部屋を漁った。目立つ場所に母子手帳ケースを見つけ、中を確認する。
【雨戸 陽色】
これが子どもの名前だ。
母子手帳を見れば、陽色は現在生後八ヶ月の男児であり、謙太が我が子の月齢すら正確に把握していないということが判明した。
以前、龍之介がこのマンションを訪れたのは出産祝いを渡すためだった。当時のふたりは初めての子育てに悪戦苦闘していて、でも幸せそうだった、と思い出す。
あれからたった数ヶ月後にこうなるとは当事者の誰も予想していなかっただろう。
「とにかく、ケンタは明日仕事休め」
「え、でもオレ明日は大事な会議があr」
「おまえは馬鹿か? 仕事と子ども、どっちが大事だと思ってんだ、ああ???」
「そ、そりゃ勿論子どもも大事だけどさ、でもオレがクビになったら路頭に迷うじゃん? それに、寧花だって子ども置いてくなんて育児放棄ってヤツじゃね? 母親なのに」
「……はぁ~~~……」
龍之介はここに来てから何度目かの溜め息を洩らした。
やはり駄目だ。ここまで来て完全にまだ理解していない。寧花の捨て身の意思表示は謙太に全く伝わっていない。
「おまえ、なんで寧花さんが子ども置いてったと思う?」
「わかんねーよ。急だったし」
「本当に急か? おまえ、男は仕事してりゃ子育てしなくていいと思ってないか? 嫁が専業主婦だからって子どもが出来る前と全く同じ生活が送れると思うなよ!!」
「……ッ」
龍之介からひと息に叱り付けられ、謙太は見るからに落ち込んだ。
明日からどうしたらいいか、そもそも今晩だって乗り切れるかどうか分からないから謙太は龍之介を頼った。
「おまえが一時間もしないうちに音をあげた子育て、今まで寧花さんは一人でやってきたんだぞ」
「……そりゃ、母親だから」
「今世紀最大のクソ馬鹿野郎か? 女には自動で育児機能が携わってるとでも? 寧花さんだって初めての育児で必死になって情報集めて頑張ってたんだよ! 見ろ」
バン!とローテーブルに置かれた雑誌や本の山を見て、謙太は目を見開いた。
それは育児関連のものばかりで、至る所に付箋が貼られていた。どれもページの端がヨレている。何度も何度も読み返された証だ。リビングの隅に置いてあったものを龍之介が見つけたのだ。
「…………オレ、どうしたら」
少しは反省したのだろう。
目の前の育児雑誌をぱらぱらと捲りながら、謙太は弱々しい声で呟いた。
「とにかく明日は仕事休め。な? 会社に事情を説明すりゃ一週間くらい休めるだろ。その間に寧花さんに謝って戻ってきてもらうかどうにかして……」
「う、うん」
「じゃあ俺は帰るから。しっかりやれよ」
そう言って龍之介が立ち上がると、謙太は慌ててその脚に縋り付いた。
「帰んの? この状況で?? 嘘だろ???」
「当たり前だろ」
「夜中に陽色が起きたらどーすんだよ!」
「は?」
「朝メシなに食わしていいかもわからん」
「はあぁ!??」
こうして、なし崩しに龍之介は謙太のマンションに泊まることとなった。
0
お付き合いはお試しセックスの後で。
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています

雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる