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最終章 その後の話
105話・大事な人
しおりを挟む「そんなに泣いて、こんなところまで来て。どうしちゃったんですか」
「悪い。完全に無意識で」
リビングのソファーに座らされ、温かい紅茶を出され、諒真は完全に戻りそびれてしまった。未だマンションの空間は歪められたまま、転移魔法の発動は抑え込まれている。
隣に腰掛けている創吾は機嫌が良い。穏やかな笑みを浮かべ、泣き腫らした目をした諒真を見つめている。
「これ飲んだらすぐ帰るから」
「ゆっくりしていけばいいのに」
「そういうワケにはいかないだろ。もうすぐ魔法は使えなくなるんだから」
「まあ、確かに」
異世界からの送還は諒真と創吾、そして教皇の魔力を用いたため使い果たしてはいないが、あと一回転移するくらいしか残っていない。教皇の命が尽きれば大聖堂が崩壊し、もう魔力は供給されなくなる。自然回復もせず、今ある魔力を使い切ったら終わりということだ。
「せっかくだから話をしましょうよ。帰る間際まで召喚魔法の習得や何やらでそれどころじゃなかったし」
「そうだな……」
話し足りないと思っていたのは諒真も同じ。SNSのトークルームで話せるとはいえ、あちらはアイコンと音声または文字のみ。今を逃せば直接顔を合わせて話せる機会はいつになることか。
「……僕は、君が異世界に残るつもりだったらどうしようかと心配でした」
寂しげな笑顔で創吾がぽつりと呟く。
「いや、無いだろ。第一、魔法が使えなくなったらオレなんか異世界で何の価値もないからな」
「そんなこと」
「謙遜でもなんでもねーよ。事実だ。戦うだけで、他は全部周りに助けてもらってたし、何の役にも立たない木偶の棒だよ」
「僕だって同じですよ」
「創吾は医者としての知識があるだろ。治癒魔法が使えなくても役に立てる」
例え異世界に残留したとしても、大聖堂が無くなれば魔法は使えなくなる。過去の栄光に縋ってチヤホヤされて生きていくという選択肢もあった。だが、そんな道は誰も選ばなかった。
創吾と違い、ごく普通の会社員である諒真は異世界で何も出来ない。
「魔法とか抜きにしても、リエロくんは諒真くんに残ってほしかったでしょうね」
「いや、駄目だろ」
「まだ若いけど、なかなか根性がある騎士でしたし、君ひとりを養うくらい喜んでやりそうでしたよ」
「それを言うなら、ラミエナだっておまえが居れば──」
「なんでそこでラミエナさんが出てくるんですか」
「おまえが最初にリエロのこと言ったんだろ!」
「だって、諒真くんが自分を卑下するから」
「オレのせいかよ!元はと言えばおまえが!」
徐々にヒートアップする言い合いの中で、互いに睨み合う。どちらも譲らぬ姿勢を見せるが、先に諒真が折れた。小さく息をつき、ひらひらと手のひらを翻し、気持ちを落ち着けるように少しぬるくなった紅茶をひと口飲む。
「やめやめ。せっかく帰ってきたのに喧嘩なんかアホらしい。オレたちは元の世界を選んだんだからさ」
そう。
勇者一行は元の世界を選んだ。
家族や友達、大切な人がいるから。
「あの、」
先ほどまでの言い争いが嘘のように、創吾が重い口を開いた。視線をそらし、膝の上で組んだ指を頻繁に組み替えている。
「……諒真くんは、こっちの世界に大事な人がいるんですよね。……それって恋人だったりします?」
「は?」
突然の問いに、諒真は目を見開いた。
「なんだよ急に。……あー、そういや、そーゆー話も全然してなかったもんなぁ」
頭を掻きながら、諒真は照れ臭そうに口元を綻ばせた。
「いるよ、大事な人」
この言葉に、創吾は自分の心臓が杭で貫かれたかのような痛みを感じた。
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