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第14章 愚かで正しい選択
102話・さよなら異世界 2
しおりを挟む送還は大聖堂内の広間で行うと決まった。
初めて異世界に召喚された時。
魔王撃破後に送還された時。
そして、再召喚された時。
三度も異世界と元の世界を行き来したことで、空間が繋がりやすくなっているという。少しでも成功の可能性を高めるため、場所選びにも気を使った。
「ここ、こんなに広かったんだなー」
「私たち以外もう誰もいないものね」
聖都ハイドラの住民はみな離れた街や村の仮設住居に避難した。たくさん居た聖職者や侍女、下働きの者たちも居ない。多くの人々で賑わっていた式典の時より広く感じてしまう。
勇者一行の四人は再召喚された時に着ていた服に着替え、広間の中央に並んで立っている。少し離れた位置から聖騎士団の遠征部隊隊長ハルク、副隊長イルダート、そしてラミエナとリエロが見守っている。団長のエルヴィダは周辺諸国への説明や交渉で各地を飛び回っており、この場には居ない。
広間の一段高くなった壇には、ルノーに支えられた教皇が立っていた。
「其方たちには感謝してもしきれぬ。華々しく送り出してやれないのが心残りだが……」
繰り返されてきた負の習慣を終わらせ、本当の意味で異世界に平和をもたらした。偉業を成し遂げたにも関わらず、人々から賞賛の言葉を向けられることもない。
「それより、本当にいいの?」
「構わぬ。其方たちを見送るほうが重要だ」
諒真の問いに、教皇は笑って答えた。
召喚の反対……送還魔法を使えば、教皇ザクルドを彼の生まれ育った世界に帰すことが出来る。何度か提案したが、その度に教皇は首を横に振って断った。
「自分の世界より、こちらの世界で暮らした年月のほうが遥かに長いのだ。わたしにとってハイデルベルド教国は故郷と同じ。最期はこの地で眠りたい」
最後の最後に意志を確認して、諒真も納得した。
「さあ、リョウマ、ソウゴ。始めよう」
「……ああ」
「ええ、わかりました」
教皇の合図で、諒真と創吾が向かい合って立ち、両手を広げた。ふたりの魔力が合わさり、練られ、ひとつの強大な魔法が発動しようとしている。
個々では習得出来なかったが、ふたりなら出来る。
諒真の転移魔法と創吾の空間魔法。
次元をずらし、繋げ、離れた場所まで転移する。
ただ、それだけでは異世界で過ごした時間が元の世界でも経過してしまう。既に再召喚から約一ヶ月。元の世界では行方不明扱いになっており、警察の捜査が入れば携帯電話の使用履歴やSNSのログから四人の繋がりが判明してしまう。年長ふたりによる未成年者誘拐だと疑われる可能性もある。
諒真と創吾だけでは元の世界に帰るだけで精一杯。
だからこそ、教皇は送還に立ち会うと決めた。
時空を捻じ曲げ、時間を戻す。
これは教皇にしか出来ない御業。
「──ユウト、リョウマ、ショウコ、ソウゴ。其方たちの未来に幸あらんことを。……さらばだ」
最初の送還時と同じ言葉だが、今度は単なる形式ではない。気持ちがこもった別れの言葉だ。
まばゆい光の中に消えていく四人の姿を見送る者たちは、最後の光の粒が大気に溶けるまで瞬きひとつしなかった。
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