【完結】魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話

みやこ嬢

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第14章 愚かで正しい選択

101話・さよなら異世界 1

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 大司教ルノーは、あの夜以降ずっと放心状態となっていた。『原初の竜』の偉業と教えを人々に説くと言う使命に燃えていたにも関わらず、いつからか暴走し、竜の意向に添わぬ行いを繰り返していたのだ。正気に戻り、本来の名前を思い出した今、彼は後悔の念に苛まれている。

「終わったよ、ルノー様」
「聖都に住む人たちを全員送り出したわ。さっき見回りもしてきた」
「……そうですか。ありがとうございます」

 にこ、と笑顔を向けるが、ルノーの表情に覇気は感じられない。由宇斗ゆうと将子しょうこは顔を見合わせ、小さく肩をすくめた。

 ルノーは本当の名である『バエル』と呼ばれることを嫌った。他国では聖人扱いされ、崇められている存在だが、本人は自分の名ばかりが広まってしまったことを申し訳なく思っている。
 彼は大聖堂上階にある部屋の椅子に座ったまま、ぼんやりと過ごしていた。

「ルノー様も避難しなきゃ」

 由宇斗が肩に手を掛けると、ルノーはその手を軽く払い、無言で小さく首を横に振った。







「もうちょっとで何か掴めそうなんだよなぁ」
「僕もです。でも、まだ足りない……」

 諒真りょうまは転移魔法を、創吾そうごは空間魔法をそれぞれ研究して召喚魔法を習得しようと奮闘していた。聖都の住民の引っ越し作業をする傍ら、魔法の精度を高めてきたのだが、やはり自力で何とかするには無理があるようで、あと少しのところで行き詰まっている。

「ルノーも抜け殻みたいになっちまったし」
「あれではもう何も出来ませんね」

 最悪、ルノーに頼んで教皇位を継ぐ覚悟も決めていた。聖都ハイドラを維持する必要はないため、それならば四人全員で帰還も可能だ。
 しかし、肝心のルノーが腑抜けてしまい、何もする気力がない状態となっている。

其方そなたたちが歴代最強というのは本当のようだな。わたしの魔力をとうに超えておるようだし、召喚魔法習得もなかなかい線をいっている」

 寝台に横たわったまま、教皇がふたりに声を掛ける。聖都崩壊と退避を宣言した後から数日寝込んでいたが、今日は会話出来るくらい体調が良い。

「でもまだ全然使えないんだけど」
「何か助言いただけませんか」
「ふむ……、そうだな」

 教皇はしばらく考え込んでから、目を凝らして諒真と創吾をた。ふたりの魔力や使える魔法から可能性を探る。

「……どちらかが会得するのは諦めたほうが良いだろう。ただ、うまくやれば召喚魔法が使えるはずだ」
「え、マジで?」
「どうすれば?」

 必死の形相で縋り付くふたりに、教皇はフフッと笑った。まるで我が子を見守るように表情を綻ばせる。

「其方たちはよく似ておるのに、お互いのこととなると解らなくなるのだな」
「へ?」
「どういう意味です?」







 守るべき大聖堂と聖都が無くなることから、聖騎士団という組織は解体となった。団長のエルヴィダはハイデルベルド教国の暫定的な代表として各貴族たちを取りまとめる役目に就いた。

 団員たちは一旦地元に戻り、組織が再編される時を待つことになった。リエロとラミエナも一旦地元である男爵領に戻り、ハルクとイルダートと共に領内の治安維持のために働くことが決まっている。

 それなのに、彼らはまだ聖都に残っていた。

「ユウト殿、ショウコ殿、リョウマ殿、ソウゴ殿。皆さまがたには誠にご迷惑を……」
「いいって!頭あげてよ隊長さん」
「そういうわけには参りません」
「も~、カタブツなんだから」

 由宇斗に笑われ、ハルクはようやく顔を上げ、表情を緩めた。

「……本当に帰られてしまうのですね」
「うん、なんとかね」
「諒真さんたちの努力の賜物ね」
「寂しくなりますな」

 聖都ハイドラにはもう住民は残っていない。全員ここから離れた街や村に作られた仮住まいの住居に引っ越し済みである。普段ならば活気に溢れ、行き交う人々でごった返していた通りも、しんと静まり返っている。

 これから勇者一行は元の世界に帰る。
 華々しい式典も宴もない。
 たった数人の聖騎士たちに見送られて。
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