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第14章 愚かで正しい選択
100話・教皇の宣言
しおりを挟む「た、隊長、一体何を……?」
弱りきった教皇本人に余命を尋ねるという無礼極まりない質問をしたハルクに対し、リエロとイルダートは狼狽した。
彼らは聖騎士団に所属しており、神である原初の竜の次に教皇を崇めている。その尊き存在に『いつまで生きられるか』と直接確認した。忠義に厚いハルクがそのような発言をするとは、と驚いているのだ。
「不躾な質問を致しました。ことが終わってから如何なる処罰も受けます。……ただ教皇聖下のお言葉通り、我々には時間がありません」
普段から厳めしいハルクの表情が更に険しくなっている。覚悟と気迫に圧され、リエロたちはそれ以上何も言えなくなった。
「良い案があるのか?ハルク」
「皆さまのお力頼みの、策とも呼べぬものではありますが」
「なんでもいい。教えてくれ」
諒真に催促され、ハルクは考え付いた策を皆に説明した。
長い夜が明けた。
日が昇る前に国内の主だった貴族、領主の元に使者が走り、昼過ぎにはほぼ全員が大聖堂の広間へと馳せ参じた。大司教ルノーの姿はない。
御簾を上げ、参列した人々の前に姿を見せ、教皇はこう言い放った。
「此度の討伐により、魔王は二度と復活しなくなった。役目を終えた大聖堂は聖都ハイドラと共に失われる。聖都に住まう全ての民は速やかにこの地を離れ、既存の街や村、新たに築かれる集落に移住するように」
人々の間に激震が走る。
今居るこの場所が失われると言われたのだ。誰もが足元を見下ろし、広間の天井を見上げた。ハイデルベルド教国の象徴たる大聖堂、そして聖都が無くなり、住めなくなってしまう。俄かには信じ難い話だが、教皇が宣言した以上、嘘や冗談ではないことは確か。
聖騎士団団長のエルヴィダが話を補足する。
「区画ごとに定められた受け入れ先の領地に移り住んでいただきます。速やかに荷造りを済ませ、移動を開始してください」
もちろん反対の声が上がるが、エルヴィダはそれを一蹴した。高位貴族の威圧を乗せ、笑顔で話を続ける。
「約十日後に聖都ハイドラは崩壊いたします。遅れれば命の保証は出来ません。長距離移動が難しい老人や幼な子、身重の女性に関しては聖騎士団で支援いたします」
有無を言わさぬ態度に、参列した人々はそれ以上何も言えなくなってしまった。聖騎士団の面々からそれぞれ割り振りを伝えられ、領地持ちの貴族たちはまず受け入れ態勢を整えるところから始める。
「早急に土地の選定を。必要な物資はこちらで手配して運びます。費用は国が負担しますのでご心配なく」
個別に説明を受けた貴族や領主たちは、真っ先に聖都内にある屋敷から家財を運び出し始めた。多くの荷馬車が聖都と地方の領地を行き来するようになる。
避難民たちの受け入れもせねばならないが、空いた土地があっても僅か十日で整地することは不可能。そこで勇者一行の出番となった。
由宇斗と将子が邪魔な樹々を引っこ抜き、大きな岩を退かし、開墾の下地を整える。
諒真が魔法で地面を均して整地。転移魔法で各領地を転々と移動し、物資を運びつつ同じように作業をする。
受け入れ先の家を建てる職人の数は限られている。彼らの体力を底上げし、疲れを癒し、普段の数倍の速さで作業できるようにサポートするのは創吾の役目だ。
魔法の明かりを灯し、昼夜を問わず作業することで、僅か数日で仮住まいとなる建物が完成した。
「やれば出来るもんだなぁ」
「全員必死でしたもんね」
「住む場所がなくなるんだ。必死にもなるよな」
各地を見回り、出来上がったばかりの建物を眺めて呟く。
あの時、ハルクが出した策は『聖都からの全員退避』だった。
数千人の住民全員が一度に引っ越すのだ。通常ならば数ヶ月は掛かる作業を僅か一週間ほどで終わらせることが出来たのは、勇者一行の力と聖騎士団、そして貴族たちの協力があったからだろう。団長のエルヴィダが近隣諸国の代表に話をつけ、建築資材の融通と職人を手配してもらえたことも大きい。
「あとはオレが自力で移動出来ない人たちを転移魔法で運べば終わりだな」
「ええ。聖都の問題はそれで解決します」
しかし、まだ大きな問題が残っていた。
召喚魔法の習得である。
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