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第14章 愚かで正しい選択
98話・格闘家の鉄拳制裁
しおりを挟む物理最強の『格闘家』による渾身の平手打ちが右頬に当たり、ルノーの首がゴキッと嫌な音を立てて折れた。
突然の容赦無い攻撃に由宇斗とエルヴィダは唖然としたが、不死身のルノーはすぐに復活した。コキコキと首を左右に振って調整し、自分の首の骨を折った将子に笑顔を向ける。
「今のは強烈な一撃でした」
不死身の肉体を持つルノーに対して物理攻撃は無意味だ。だが、それでも将子は彼を殴らずにはいられなかった。
「ヘラヘラ笑わないで。気持ち悪い」
「あ、その言葉は殴られるより効きますね」
実年齢は定かではないが、ルノーは見た目だけは美青年である。未だかつて年頃の女性から「気持ち悪い」などと言われた経験はなかったのだろう。地味にダメージを受けている。
「ルノー様からすれば私たちなんか子ども以下の存在でしょうけど、だからって好き勝手にされるのは我慢ならないのよね」
将子は珍しく怒りの表情を浮かべ、ルノーを真っ正面から睨みつけている。彼女がここまで他人に感情を露わにすることは滅多にない。傍観している立場の由宇斗の方が青褪め、身体を震わせている。
「し、将子……?」
「由宇斗は黙ってて」
「アッはい」
異世界最強剣士『勇者』を一言で黙らす気迫に、そばで座り込んでいるエルヴィダもビクッと身体を強ばらせた。怯えるふたりを無視して、将子は更に続けた。
「何故だか分かった気がするわ。『原初の竜』が姿を現さない理由」
「!それは何ですかショウコ様」
将子の言葉にルノーがすぐさま食いついた。『原初の竜』との再会は彼の悲願。良い案があれば知りたくなるのは当然。
「ルノー様が変わらない限り、竜は絶っ対に出てこない。貴方がこんな馬鹿な真似をしてるから、きっと恥ずかしくて出てこれないんだわ」
「は、恥ずかしい……?私が?」
「そうよ。大昔に異種族間の争いを収めたんでしょ?ってことは争い事が嫌いなのよね竜は」
「ええ、だから、争いが起これば、また……」
「そこ。それが間違ってるのよ」
「?」
きょとんとした顔でルノーは首を傾げた。
将子が何を言いたいのか、ルノーには分からない。長く生き過ぎて、色々と考え過ぎて、逆に簡単なことが見えていないのかもしれない。
「いま出てきたら、ルノー様はこのやり方が正しかったと思ってしまうでしょ。きっと竜はそう思われたくないんだわ」
「どういう意味ですか。教えてください」
必死の形相で縋り付くルノーに対し、将子は冷めた目を向け、再び頬に平手を食らわせた。
「──長く生きてるのに、そんなことも分からないなんて。いいえ、長い時間に耐えられなかったのね。だからルノー様は自分が何者かすら忘れてしまったんだわ」
「え……?」
「ルノー様が自分で言ったのよ。『原初の竜の素晴らしさを説かねばならない』って。それ、バエル教の開祖がやってたことでしょ。つまり、ルノー様と聖人バエルは同一人物なんじゃないの?」
将子の言葉に、祈りの間がしんと静まり返った。
ルノーをはじめ、エルヴィダも由宇斗もぽかんと口をあけて茫然としている。
「な、何を馬鹿なことを……」
「覚えてないんでしょ、いつから生きてるのか。なぜ死なない身体になったのか。じゃあ否定は出来ないんじゃない?」
「そ、れは……」
どれだけ攻撃を喰らっても平然としていたルノーが、将子の指摘に綺麗な顔を歪ませた。震える手で自分の頬に触れ、爪を立てる。皮膚が抉れて血が滲むが、傷はすぐに塞がっていく。
「わ、私が……バエル……?」
「自分の名前のほうが広まっちゃって、それで罪悪感を感じたの?だから『原初の竜』の知名度を上げるために色々やってたんでしょ?」
否定したいのに、ルノーには出来なかった。とっくに薄れ、消えたはずの記憶が僅かに蘇ってきたからだ。
「……私の、本当の名は、バエル……『原初の竜』に出逢い、彼と共に世界を巡り、あらゆる種族間の諍いを仲裁した……」
憑き物が落ちたかのように、ルノーの瞳から狂気の色が無くなり、いつも浮かべていた穏やかな笑みも消えた。真っ白な法衣の胸元をキツく握り締めながら、ルノー……バエルはゆっくりと記憶を取り戻していった。
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