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第14章 愚かで正しい選択
96話・大司教の目的
しおりを挟む大聖堂の地下にある教皇の部屋で諒真たちが情報を共有している頃、逃げた大司教ルノーの後を由宇斗と将子が追い掛けていた。
「由宇斗、こっちよ」
「わかった!」
将子の広範囲索敵は諒真の生体感知魔法に匹敵するほどの精度を誇る。例え隠し通路を使って逃げたとしても、標的が建物のどの辺りにいるかが分かる。進行方向から大体の行き先を予測して先回りすることも可能。
そうして辿り着いた場所は祈りの間だった。
凱旋の式典が開かれた大広間とは違う。ここは一般の参拝者が入ることの出来ない場所。高位聖職者が神である『原初の竜』に祈りを捧げる場だ。正面奥には祭壇があり、竜の像が飾られている。
「ルノー様、逃げないでよ」
「ユウト様……」
隠し通路から出たルノーは出口で待ち構えていた由宇斗たちを見て困ったように微笑んだ。
「申し訳ありません、気持ちを落ち着けたかったもので。静かな場所で祈りを捧げようかと」
言いながら、ふたりの横をすり抜けていく。祭壇の前に両膝をつき、頭を垂れ、小さな声で聖句を唱えている。ルノーの後ろ姿を見ながら、由宇斗と将子は顔を見合わせた。
倒せないと分かっている相手に対し、闇雲に攻撃を仕掛けても意味はない。これ以上どこにも逃げないよう見張るしか出来ない。
「……あのさぁ」
「なんでしょう?」
しばらくの沈黙の後、由宇斗が口を開き、ルノーが背を向けたまま反応する。
「ルノー様の本当の目的はなに?」
「私は……人々が『原初の竜』を忘れぬよう異種族間の争いを……竜の代わりに」
先ほどと同じ返答を繰り返すルノーに、将子は眉をひそめた。
「私たちはそんなことのために異世界に召喚されたの?魔王も教皇も、結局はルノー様が作り出してたんじゃない。何度繰り返しても終わらないのなら意味がないわ」
「わざと争いを起こして自分で止めてどうすんだよ。その先に何か目的があるからやってるんじゃないの?」
「その先……?」
祭壇前に跪いたまま小首を傾げ、言葉を反芻する。
普段とはどこか違う。本当に解っていない、といった様子だ。長く生き過ぎたために本来の目的を忘れ、手段しか覚えていないのかもしれない。
「どうして原初の竜にこだわるの?」
「当然のことです。何故ならば、……あれ?」
問われるまま答えようとして、ルノーは言葉を詰まらせた。
「わ、私は……何故……?」
理由を述べようとしたのに何も言うことが出来ず、ただ何度も口を開きかけてはやめている。
「……ああ、そうだ。私は……」
ゆっくりと身体を起こし、よろめきながら立ち上がる。ルノーは由宇斗たちを振り返りもせず、祭壇に飾られている竜の像を見上げた。
「──もう一度だけ、竜に逢いたい」
ひと抱えほどの大きさの年季の入った石製の像が祭壇の奥の壁に嵌め込まれている。鱗や牙のひとつひとつまで丁寧に仕上げられた、まるで本物を目の前にして造り上げたかのような精緻な彫像。
「異種族間の争いを起こせば再び竜が現れてくれると……でも、何度やってもうまくいかなくて……被害が拡がりきる前に勇者を派遣して……もしかしたら、信者を増やして竜の功績をもっと広めれば戻ってきてくれるのではないか……そう、まだ足りないだけ。きっと、次こそ……」
言葉にして言い聞かせ、ルノーは自分の意志を再確認しているようだった。異様な空気に飲まれ、由宇斗と将子は何も言えずに立ち尽くす。
しん、と静まり返った室内に女の笑い声が響いた。声のする方向を見れば、後方にある出入り口に聖騎士団団長のエルヴィダがひとりで立っていた。手には抜き身の細剣を持っている。
「くだらない。そんなことのために国を乱して、何が大聖堂よ。何が聖職者よ!」
いつから話を聞いていたのだろうか。エルヴィダは眉間に皺を寄せ、不快感を露わにしている。
「ハイデルベルド教国が周りの国々から陰で何と言われているかご存知?『彼の国は勇者を喚ぶが、その平和は長続きしない』『作為的なものを感じる』と言われているのよ。そんな言葉を聞く度に、何を馬鹿なことをと否定してきたのに、まさか真実だったなんて……!」
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