97 / 110
第14章 愚かで正しい選択
96話・大司教の目的
しおりを挟む大聖堂の地下にある教皇の部屋で諒真たちが情報を共有している頃、逃げた大司教ルノーの後を由宇斗と将子が追い掛けていた。
「由宇斗、こっちよ」
「わかった!」
将子の広範囲索敵は諒真の生体感知魔法に匹敵するほどの精度を誇る。例え隠し通路を使って逃げたとしても、標的が建物のどの辺りにいるかが分かる。進行方向から大体の行き先を予測して先回りすることも可能。
そうして辿り着いた場所は祈りの間だった。
凱旋の式典が開かれた大広間とは違う。ここは一般の参拝者が入ることの出来ない場所。高位聖職者が神である『原初の竜』に祈りを捧げる場だ。正面奥には祭壇があり、竜の像が飾られている。
「ルノー様、逃げないでよ」
「ユウト様……」
隠し通路から出たルノーは出口で待ち構えていた由宇斗たちを見て困ったように微笑んだ。
「申し訳ありません、気持ちを落ち着けたかったもので。静かな場所で祈りを捧げようかと」
言いながら、ふたりの横をすり抜けていく。祭壇の前に両膝をつき、頭を垂れ、小さな声で聖句を唱えている。ルノーの後ろ姿を見ながら、由宇斗と将子は顔を見合わせた。
倒せないと分かっている相手に対し、闇雲に攻撃を仕掛けても意味はない。これ以上どこにも逃げないよう見張るしか出来ない。
「……あのさぁ」
「なんでしょう?」
しばらくの沈黙の後、由宇斗が口を開き、ルノーが背を向けたまま反応する。
「ルノー様の本当の目的はなに?」
「私は……人々が『原初の竜』を忘れぬよう異種族間の争いを……竜の代わりに」
先ほどと同じ返答を繰り返すルノーに、将子は眉をひそめた。
「私たちはそんなことのために異世界に召喚されたの?魔王も教皇も、結局はルノー様が作り出してたんじゃない。何度繰り返しても終わらないのなら意味がないわ」
「わざと争いを起こして自分で止めてどうすんだよ。その先に何か目的があるからやってるんじゃないの?」
「その先……?」
祭壇前に跪いたまま小首を傾げ、言葉を反芻する。
普段とはどこか違う。本当に解っていない、といった様子だ。長く生き過ぎたために本来の目的を忘れ、手段しか覚えていないのかもしれない。
「どうして原初の竜にこだわるの?」
「当然のことです。何故ならば、……あれ?」
問われるまま答えようとして、ルノーは言葉を詰まらせた。
「わ、私は……何故……?」
理由を述べようとしたのに何も言うことが出来ず、ただ何度も口を開きかけてはやめている。
「……ああ、そうだ。私は……」
ゆっくりと身体を起こし、よろめきながら立ち上がる。ルノーは由宇斗たちを振り返りもせず、祭壇に飾られている竜の像を見上げた。
「──もう一度だけ、竜に逢いたい」
ひと抱えほどの大きさの年季の入った石製の像が祭壇の奥の壁に嵌め込まれている。鱗や牙のひとつひとつまで丁寧に仕上げられた、まるで本物を目の前にして造り上げたかのような精緻な彫像。
「異種族間の争いを起こせば再び竜が現れてくれると……でも、何度やってもうまくいかなくて……被害が拡がりきる前に勇者を派遣して……もしかしたら、信者を増やして竜の功績をもっと広めれば戻ってきてくれるのではないか……そう、まだ足りないだけ。きっと、次こそ……」
言葉にして言い聞かせ、ルノーは自分の意志を再確認しているようだった。異様な空気に飲まれ、由宇斗と将子は何も言えずに立ち尽くす。
しん、と静まり返った室内に女の笑い声が響いた。声のする方向を見れば、後方にある出入り口に聖騎士団団長のエルヴィダがひとりで立っていた。手には抜き身の細剣を持っている。
「くだらない。そんなことのために国を乱して、何が大聖堂よ。何が聖職者よ!」
いつから話を聞いていたのだろうか。エルヴィダは眉間に皺を寄せ、不快感を露わにしている。
「ハイデルベルド教国が周りの国々から陰で何と言われているかご存知?『彼の国は勇者を喚ぶが、その平和は長続きしない』『作為的なものを感じる』と言われているのよ。そんな言葉を聞く度に、何を馬鹿なことをと否定してきたのに、まさか真実だったなんて……!」
10
《 最新作!大学生同士のえっちな純愛 》
お付き合いはお試しセックスの後で。
《 騎士団長と貴族の少年の恋 》
侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい
《 親友同士の依存から始まる関係 》
君を繋ぎとめるためのただひとつの方法
《 わんこ営業マン×メガネ敬語総務 》
営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい
《 ダンジョン探索で深まる関係 》
凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。

お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
秘めやかな愛に守られて【目覚めたらそこは獣人国の男色用遊郭でした】
カミヤルイ
BL
目覚めたら、そこは獣人が住む異世界の遊郭だった──
十五歳のときに獣人世界に転移した毬也は、男色向け遊郭で下働きとして生活している。
下働き仲間で猫獣人の月華は転移した毬也を最初に見つけ、救ってくれた恩人で、獣人国では「ケダモノ」と呼ばれてつまはじき者である毬也のそばを離れず、いつも守ってくれる。
猫族だからかスキンシップは他人が呆れるほど密で独占欲も感じるが、家族の愛に飢えていた毬也は嬉しく、このまま変わらず一緒にいたいと思っていた。
だが年月が過ぎ、月華にも毬也にも男娼になる日がやってきて、二人の関係性に変化が生じ────
独占欲が強いこっそり見守り獣人×純情な異世界転移少年の初恋を貫く物語。
表紙は「事故番の夫は僕を愛さない」に続いて、天宮叶さんです。
@amamiyakyo0217

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる