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第13章 大聖堂の真実
91話・血塗れの手
しおりを挟む『今の自分』ではなくなることを創吾は恐れた。抑圧して閉じ込め、生涯隠し通すはずだった黒く薄汚い感情。それが全て解放された時の、無限に世界が拡がる感覚。これからは自分を偽らなくていい。物分かりの良い大人を演じる必要もない。
それなのに、諒真は元の窮屈な自分に戻れという。今の創吾にとっては酷な言葉だ。
「嫌です、絶対に嫌だ。僕はこのままでいい!」
「どうしたんだよ、なんで嫌がるんだ」
創吾は自分の周りに防御盾を出して諒真の接近を拒んだ。先ほどまでは近付こうとしていた彼の豹変っぷりに、諒真はただ戸惑うばかりだった。
「おまえ、教皇サマに会いにきたんじゃなかったのか」
「そう、ですけど……」
「そもそも、地下に何しに来たんだよ」
諒真の後を追ってきたのなら大聖堂の上階に向かうはず。創吾は迷わず地下に向かった。明確な目的があるからだ。
「ソウゴ」
揉めるふたりの会話の間に教皇が割り込む。
低くて涼やかな声に、諒真も創吾も黙った。
「おまえはわたしを殺しに来たのだろう。そばに来い。今のわたしには抵抗する力はない。魔法を使わずとも、その手でこの首を押さえればすぐ終わる」
「ちょ、教皇サマ何を……!」
思わぬ発言に諒真が慌てて止めようとするが、目配せされてその真意を悟る。だが、急に態度を変えては怪しまれてしまう。口裏を合わせ、なんとか自発的にそばに寄るように誘導する。
「創吾、教皇サマは弱ってて動けないんだ。手荒な真似はするなよ。魔法はオレが全部跳ね返すからな」
「……へぇ、動けないんですか」
指摘通り、創吾がここに来た目的は教皇の排除。大司教ルノーを排除しようとした諒真とは違う。
自由に動けないと知って、創吾の心に余裕と油断が生じた。先ほどまで嫌がっていた癖に、教皇のそばに行くことに抵抗を感じなくなる。普段なら警戒を解かなかっただろうが、今の創吾はその場の感情で動く。目の前の男が取るに足らない存在だと分かった途端、自ら進み出た。
カツ、と一歩近付くごとに創吾の脇腹から血が滲み、滴り落ちる。手を前へと伸ばし、教皇の首元を狙う。傷口を押さえていたからか、手のひらにはべっとりと血が付いている。すぐそばで見ていた諒真は、血塗れの手を見て目を背けた。
「貴方が死ねば、次の教皇は僕です」
手を教皇の喉にグッと押し当て、気道を圧迫して呼吸を阻んだ。教皇は苦しむ素振りすら見せず、されるがままになっている。
このままでは本当に教皇が死んでしまう、と諒真が止めようとした時だった。
「…………あれ、僕は……」
ぼんやりとした声で創吾が呟いた。
自分の血塗れの手が教皇の首に掛かっていることに気付き、小さく悲鳴をあげて引っ込める。次に、脇腹に走る痛みに悶絶し、寝台のそばに膝をついた。
その瞳にはもう暗い影はなかった。
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