【完結】魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話

みやこ嬢

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第13章 大聖堂の真実

90話・狂った僧侶

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 大聖堂の地下深くにある、弱った教皇を隠すためだけに存在する部屋。薄暗く冷えた室内で、諒真りょうま創吾そうごと対面していた。

 ぽたり、と血が床に落ちる。
 それを見て諒真が眉をひそめた。

「なんで傷を治さないんだよ。杭は消えただろ」

 邪魔をされぬように放った攻撃魔法を凝縮して生み出した杭は、精神の乱れで遠隔操作が出来なくなって掻き消えた。治癒魔法を得意とする創吾なら、刺さった杭さえなければ傷が塞げるはず。

「治すなんて勿体ない。せっかく諒真くんがくれた痛みですから、死なない程度に残しておこうと思って」
「はぁ?」

 それはつまり、痛覚遮断をせず、動ける程度に治癒して、わざと出血と痛みが残るように調整しているということだ。

「おまえ、やっぱおかしいよ」
「あは、そうかもしれません。でも気分は良いですよ。しがらみから解放されたような、すごく晴れやかな気持ちなんです」

 うっとりとした笑みを浮かべて近付いてくる創吾から距離を取るため後退りするが、すぐに寝台に行き当たる。後ろには眠ったままの教皇がいる。これ以上退くことも出来ず、諒真は覚悟を決めた。

「部屋に戻れ創吾。おまえは正気じゃない」
「嫌です。諒真くんと一緒じゃなければ戻りません」
「──ああ、もう!早く傷を治せよ!いつまで血を流してんだ!」
「だって、この傷があれば諒真くんが僕を気に掛けてくれるでしょう?さっきは置いていかれて寂しかったけど、もう離れませんよね?」

 創吾の顔色は悪い。笑いながら、時折苦痛に顔を歪めている。傷が治りきっていない状態で歩いて滞在先の屋敷から大聖堂まで来たのだ。恐らく、諒真がまだ杭の操作をしている時から。

 再び創吾の脇腹から血が滴り落ちた。
 自分がやったこととはいえ、諒真は恐ろしくてたまらなくなった。何かに縋りたくて、思わず後ろの寝台をちらりと見る。

「僕がいるのに他の男のほうを見ないでくれます?」

 言い終わる前に幾つもの防御盾が出現し、物凄い勢いで寝台の上目掛けて飛んでいく。事前に諒真が張った風の魔法のガードのおかげで教皇にはひとつも当たらず、全て弾き返された。

「危ないだろ、教皇サマが怪我したらどうすんだ!ただでさえ弱ってんのに!」
「別に死んでも構わないんじゃないですか。もう召喚魔法も使えないんでしょう?魔力がほとんど残ってないみたいですし」
「おまえ、よくそんな酷いこと言えるな!」

 創吾は医者だ。怪我や病気で苦しむ人々を救うためにその仕事を選んだはずだ。だからこそ与えられた能力は治癒魔法だったのだろう。
 そんな彼が教皇の命を軽んじる発言をしたことが信じられず、諒真は激昂した。

「……騒がしい。枕元で騒ぐな」

 突然教皇が口を開いた。
 うっすらと瞼を持ち上げ、視線だけをふたりに向ける。相変わらず身体は少しも動かせないようだ。

「すみません、うるさかったですよね」
「リョウマが入ってきた時から目は覚めていた」

 身体の自由がない教皇は、今は大聖堂での仕事も出来ずに一日中寝台で眠って過ごすしかない。たまに訪れるルノーだけが話し相手だ。人の気配がすればすぐに意識は覚醒する。

「あの、実はいま創吾が来てて……」
「分かっている」

 諒真が横にずれ、教皇と創吾の間から退いた。御簾みす越しではない対面は初めてで、創吾はビクッと身体を揺らした。

「魔王ザクルドと同じ顔……ルノーが言っていた通り、教皇と魔王は元は一人の人間だったんですね」

 ラミエナに協力してもらい、情報収集している最中に自分の闇が抑えられなくなってしまったのだ。教皇の姿はルノーの話が嘘ではなかった証。創吾はようやく納得した。

「リョウマ。ソウゴをわたしのそばへ。彼の中にある『魔王の一部』を取り出せば元に戻る」
「わ、分かりました!」

 創吾がおかしくなった原因は、魔王城跡で『呪いの核』の破片を浴び、『魔王の一部』を体内に取り込んでしまったから。

「創吾、来い」
「嫌です!元に戻ったら、僕はまた自分を偽らなきゃならなくなる……そんなのもう嫌だ!」

 手を差し伸べる諒真を、創吾は睨みつけた。
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