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第13章 大聖堂の真実
89話・侵入者
しおりを挟む深夜の大聖堂に響く足音。
次第に近付いてくる不規則な靴音に、誰もが固唾を飲んで扉を見つめる。
開いた扉から現れたのは、聖騎士団団長のエルヴィダだった。彼女は聖騎士の正装で身を固め、左右に遠征部隊隊長ハルクと副隊長イルダートを従えている。二人は既に鞘から剣を抜き、いつでも振れるように構えていた。
「ハルク」
「……すまない、リョウマ殿」
諒真に声を掛けられ、ハルクは申し訳なさそうに眉を顰めた。
晩餐会の後にエルヴィダを酔い潰すよう頼んでいたが、うまく事が運ばなかったらしい。実戦経験のない名前だけの団長とはいえエルヴィダは高位貴族。部下の企みなどお見通しだったのだろう。
諒真がエルヴィダの足止めを頼んだのは話の邪魔をされたくなかったからだ。彼女は立場上大聖堂や聖職者を守らねばならない。
聖騎士全員ではなく、ある程度事情を知るハルクとイルダートだけを連れてきたところをみると、彼女の本当の目的は公にはできないもののようだ。
例えば、革命のような。
武力でルノーが倒せないと判明した今となっては制圧は不可能になったわけだが、エルヴィダはまだそれを知らない。
「まあぁ、こんな時間に皆さまお揃いで。何をなさっておいでなのかしらねぇ?」
「団長こそ、ここは大聖堂の中ですよ。そのような物々しい出立ちでどうなされました?」
ルノーが穏やかな笑みを浮かべて問うと、エルヴィダはハッと鼻で嗤った。
「夜間は無人になるはずの大聖堂に人が出入りした痕跡がありましたので見回りに。そうしたら大司教さまだけでなく勇者さまがたまでいらっしゃるんですもの。驚きましたわ」
痕跡、と聞いて諒真は首を傾げた。
諒真とリエロは滞在先の屋敷の中庭から大聖堂内部に転移魔法を用いて侵入した。由宇斗たちも、それぞれの部屋から転移魔法で直接この場に呼び出した。痕跡など残っているはずがない。
「大聖堂に続く回廊に血痕があり、建物内で途切れておりました。もしやと思い、教皇聖下の居室に来てみたのですが」
エルヴィダの話をイルダートが補足する。
先ほどルノーを攻撃して血塗れにはしたが、それはこの室内でのこと。廊下に被害は出ていない。
「あっ……」
そこで諒真は青褪めた。
近付いてくるエルヴィダたちの気配に気を取られ、もうひとつの気配を見落としていた。
生体感知魔法で探りを入れると、よく知る気配が地下深くに降りて行くのを感じた。大聖堂の地下には現教皇ザクルドが居る。
「まずい、教皇サマが!」
すぐに諒真は転移魔法で教皇の部屋に転移した。
薄暗い寝室内は相変わらず伽藍としている。冷えきった空気に諒真は身体を震わせた。寝台を覗き込めば、教皇は目を閉じて眠っていた。上階での騒ぎは地下まで届いていなかったようだ。
「……良かった、間に合った」
念のため風の魔法で寝台周辺を包んで保護する。ひと息ついて床にしゃがみ込み、大きく息を吐き出して気持ちを切り替えた。
カン、カン、と階段を降りてくる音が聞こえる。
生体感知魔法で見れば、一際強い光がこの部屋のすぐそばまで迫ってきていた。
(この部屋は魔法の防壁で護られている。オレは何故か影響を受けなかったけど、もしかしたらあいつは入れないかも)
淡い期待を抱くが、残念ながら防壁は役目を果たさなかった。バチッと乾いた音がして、あっさりと侵入者の出入りを許してしまう。
「……よぉ、創吾」
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重い扉を開けて姿を現したのは、脇腹から血を滴らせている創吾だった。
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