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第12章 元凶との対峙
84話・原初の竜
しおりを挟む適性のある者たち『勇者一行』を違う世界から召喚し、魔王を倒させる。その中のひとりを残して魔王と教皇に分割する。魔王は本能のままに暴れ回り、教皇は周辺諸国から懇願されて『勇者一行』を召喚する……ハイデルベルド教国はこれを約百年ごとに繰り返して栄えてきた。
今回は少し違う。何度も繰り返されてきた習慣をルノーが変えた。
それは、召喚した勇者一行を一旦元の世界に帰し、再び召喚したこと。これは実験だった。ルノーは『次元を渡る度に能力が上がる』という認識を持っている。元々の住人より別の世界から連れてきた者のほうが優れた能力を発揮するという説だ。
諒真たちは三度次元を超えた。初めて召喚された時より更に強くなり、まさに歴代最強の能力を持つ存在となった。
「大司教さま。最強の魔王が生まれるということは、これまでよりもっと多くの人々が苦しむということになりませんか」
「ええ。今まではハイデルベルド教国と隣国アイデルベルド王国の境に魔王の拠点があり、被害もその周辺だけでしたが、次はこの大陸全土を支配するかもしれませんね」
「そんな……!」
リエロの問いに笑顔で答えるルノー。彼はどれだけ被害が出ようと構わないと考えているようだ。
大司教の言葉にリエロは大きなショックを受けていた。わなわなと拳を震わせ、青褪めた顔で尚もルノーに疑問を投げつける。
「なんでそんなことをする必要があるんです。大聖堂を崇めてもらうためですか。小細工なんかしなくても、国民はみな信仰を心の支えにして日々を暮らしているじゃないですか!」
聖騎士の仕事の一環として、リエロは遠方から大聖堂に参拝しに訪れた人々を案内することもある。信心深い者が列を成し、大聖堂で祈りを捧げる姿を見てきた。魔王が現れれば、そういった人々にも危険が及ぶ。
「民が拝みに来るのは大聖堂が役に立つからです。魔王が現れ、国が乱れた時に救世主たる勇者を召喚することが出来るという事実があるからですよ。……でなければ、すぐに忘れられてしまいます」
これまでずっと笑顔だったルノーの表情が僅かに曇ったのを諒真は見逃さなかった。
大聖堂を頂点に置き、崇め続けさせること。
恐らくこれがルノーの行動理由なのだろう。
宗教国家というからには崇める神や教義があるはずだが、諒真は何も知らない。知ろうともしなかった。元の世界でも宗教に疎かった。大聖堂は巨大な神社のようなものという認識しかなく、今まで疑問を抱くこともなかった。
「あのさ、今更なんだけど、この大聖堂って何を祀ってるの?」
小さく挙手しながら諒真が尋ねると、ルノーとリエロが目を丸くした。当たり前過ぎて、教えていなかったことすら気付いていなかったのだ。
「原初の竜ですよ、リョウマ様」
「原初の竜ってなに?」
「この世界を見守って下さる存在です。数千年前に現われ、異種族間の争いを仲裁し、世界に平和をもたらしたと言われてます」
「へぇ~」
「他の国々で広く浸透しているのはバエル教と言って、原初の竜の存在と教えを広めた聖人バエル様を崇めているのですが、ハイデルベルド教国ではその大元となる原初の竜そのものを信仰の対象としております」
「そうなんだ」
リエロが掻い摘んで教えてくれたのは正に神話で、諒真は相槌を打つほかなかった。
同じ神を信仰していても宗派が分かれたり教義が異なること自体は珍しくはない。宗教というものは人々の心の拠り所である。土地が変わり、求めるものが変われば形も変わっていくものだ。
「バエル教など邪道です。原初の竜を差し置いて一介の人間が名を広く知られるなどあってはなりません」
ルノーの顔にはいつもの笑みは浮かんでいなかった。冷たい表情で吐き捨てるようにバエル教を否定する。
「もしかして、先代勇者一行の名前を残さないようにしたのも……」
英雄であるはずの先代勇者一行の名は記録されていなかった。後世に残さぬよう全ての書物や報告書から抹消されていた。
その勇者一行を召喚する教皇も名前が公開されていない。現に、諒真は本人に尋ねるまで教皇がザクルドという名だと知らなかった。
「原初の竜以外を崇めぬよう私が指示しました。もちろん、それ以前の勇者たちについてもです」
唯一残っているのは『教皇が召喚した勇者が魔王を倒した』という事実のみ。全ては信仰の対象を増やさぬためだった。
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