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第11章 向き合う覚悟
77話・睨み合い
しおりを挟む数日後に再び開かれた晩餐会で、勇者一行が久々に揃った。
あの日の夜から何度部屋を訪ねても返事すらしなかった創吾が穏やかな笑みを浮かべ、先に席に座っている。諒真が軽く手を挙げて「よう」と声を声を掛けると、創吾は小さく頭を下げて応えた。
いつもと変わらないように見えてどこか違う。
違和感を覚えつつも、同席している大司教ルノーや聖騎士団団長のエルヴィダ、遠征部隊隊長のハルクに不審に思われぬよう平静を装う。
「さて、皆さまの今後のお話ですが……」
食後のお茶を飲みながら、ルノーが話を切り出した。エルヴィダが隣に座るハルクを見てから、すぐにルノーへと視線を向ける。
「ユウト様、ショウコ様がこちらの世界への残留を望まれております。大聖堂を代表致しまして、私が暮らしのお世話をさせていただくことになりました」
これはルノーを欺くために諒真がふたりに吐かせた嘘である。だが、この場で初めて聞いたような素振りを見せなければならない。ガタッと椅子から立ち、目を見開いて驚愕の表情を作る。
「えっ、おまえら残るの!?」
「もう決めたんだ」
「ルノー様に相談して決めたの」
「ええ~……そうだったのかぁ……」
由宇斗と将子から残留の意志を聞き、狼狽える真似をする。テーブルを挟んだ向かいに座る創吾は僅かに目を見開いただけで、それ以上の反応は示さなかった。
「ソウゴ様も残られるおつもりなんですよね?」
「……ええ」
ルノーから話を向けられ、創吾が肯定する。それを聞いて、エルヴィダとハルクは「ソウゴ殿まで」と驚きを隠せずにいた。
これで勇者一行四人のうち、三人が残留の意志を示した。残るは諒真ただひとり。
「そっか、みんな残るんだな」
肩を落とし、力なく呟く。
迷いを見せ、隙を作る。
「リョウマ様はどうされますか」
「オレは……」
全員の視線が諒真に集まった。
ルノーからは期待。
エルヴィダとハルクからは不安。
由宇斗と将子からは緊張。
創吾からは焦り。
それぞれの思惑と感情がまるで細い針のように諒真の心を貫く。次に発せられる言葉を聞き逃すまいと、誰もが息をひそめている。僅かな衣擦れの音すらしない。
「…………オレも、こっちに残る」
長い沈黙の末に諒真が発した言葉を聞いて、創吾の顔色が初めて変わった。だが、この場では何も言わず、身動きひとつしない。
「──よくご決断されました。ちなみに、理由をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか」
ルノーは笑みを浮かべ、諒真に更なる発言を促した。生まれ育った場所を捨て、新たな地に生きるというのだ。生半可な理由ではないと分かってのことだろう。
「仲間と離れたくないってのと、こっちに大事な存在が出来たからだよ」
「そうでしたか」
この返答に、ルノーは納得したようだった。
エルヴィダとハルクは諒真の言う『大事な存在』がリエロのことだと気付き、ホッと息をついている。
由宇斗と将子は大聖堂に奪われてしまったが、諒真は無事に貴族側に取り込めたと思っているのだろう。
「皆さま全員が残られるとは、教皇聖下も喜ばれることでしょう」
ルノーは終始上機嫌だ。
どう足掻いても今の教皇に次元を行き来するような強力な魔法を使う体力はない。肉体の限界を越えてしまい、回復の余地すらないのだ。だが、誰も元の世界に帰らないのであれば代替わりを急ぐ必要もない。あとは勇者一行を甘やかして依存させ、自分の側から逃さぬようにするだけ。
晩餐会は終わり、解散となった。
それぞれ充てがわれた部屋に戻る。由宇斗たちと分かれて自分の部屋に向かって歩いていた諒真は、後ろからついてくる足音に気付きながらも無視を決め込んた。
扉を開けて部屋に入ると、足音の主も一緒に入ってきた。肩を掴まれ、無理やり振り向かされる。
「……どういうつもりですか、諒真くん」
「そのセリフ、そっくりおまえに返すよ創吾」
余裕のない、怒気を孕んだ声。
数日振りに言葉を交わしたふたりはお互いを睨み付けていた。
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