【完結】魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
77 / 110
第11章 向き合う覚悟

76話・Fist bump

しおりを挟む


 茫然と立ち尽くす諒真りょうまに教皇が声を掛ける。

「間もなくルノーが戻ってくる。見つかればまずいのではないか?」
「えっ……あ、ああ」

 ここは結界に護られた大聖堂の最深部。
 無断で侵入したことが明らかになれば、勇者一行のひとりだとしても良い顔はされないだろう。由宇斗ゆうとたちに嘘を言わせてまで足止めをしてもらったのだ。下手を打つわけにはいかない。

 転移で退室しようとして、諒真はハッと顔を上げた。まだ謎が残っていたからだ。

「ルノー様って一体何者なんですか。教皇サマもあの人の支配下にあるんですよね?」
「……ルノーが何なのかは分からない。十数年毎に代替わりをして顔と名を変えてはいるが、昔から大司教はルノーひとりで務めている」
「それって」

 先ほどの教皇が『前の魔王を倒した後に悪しき感情が芽生えてしまい、ルノーが切り離してくれた』と言っていた。先代勇者一行が魔王を倒したのは百年前。名前は違えど、その頃からルノーは大司教だったということだ。

 もしかしたら、昔からずっとハイデルベルド教国の大聖堂を支配し続けているのは──

「リョウマ、手を」
「は、はい」

 手を差し出し、教皇の動かない手に重ねる。
 小さな光がきらりと輝き、すぐに消えた。

「……さあ、早く戻るといい」
「わかりました」

 手を離し、そのまま数歩後ずさる。

「色々ありがとうございました」
「構わぬ」

 教皇は僅かに目を細めて微笑む。諒真も笑い返し、そして転移魔法で自分の客室へと戻った。








「諒真さん、うまくいった?」
「ああ、ふたりのおかげだ。そっちはどうだった?」
「ルノー様は私たちがこっちで住む屋敷を手配するって張り切ってたわ。立地や屋敷の内装の希望とか色々聞かれたの」

 他に誰もいない時間を見計らい、諒真は再び由宇斗と将子しょうこを転移魔法で集め、情報交換をした。

「貴族の話は出てきたか?」
「ううん、全然」
「やっぱりな」

 侍女や使用人に化けて近付いてきた貴族令嬢や子息は、深い仲になることで異世界に残留させようとするための手段に過ぎない。
 勇者一行が自らの意思で異世界に残ると決めれば貴族の出る幕はない。大聖堂が名声と力を独占出来る。

 当初、大聖堂と貴族は同じ目的のために協力しているように思えた。今になって思えば、そうせざるを得なかっただけで、実際は互いの出方を見張っているのかもしれない。

「ふたりとも、本気で異世界こっちに残るつもりはないんだよな?」

 諒真が問うと、由宇斗たちは肩をすくめた。

「あったりまえじゃん!絶対帰るよ」
「そうよ。ここには家族も友だちもいないもの。私は由宇斗をまだ誰にも紹介できてないわ」
「俺も将子を家族に紹介したいもん!」

 異世界に残れば地位も名声もある。
 なに不自由ない生活が約束されている。
 でも、一番大切なものがない。
 ふたりはそれをしっかりと理解していた。『魔王の呪い』の副作用で我欲が抑えきれなくなっていた頃ならば、きっと楽な道を選んでいただろう。

「やりかけのゲームとか続きが気になる漫画とかあるし。冬休み公開予定の映画も楽しみだし~」
「はは、なるほどな。納得できる理由だ」

 元の世界にしかないものを指折り数える由宇斗の姿に思わず笑いが込み上げる。

「……諒真さんも、帰るよね?」

 不意に、将子から尋ねられる。
 大きな瞳に何か見透かされたような気がした。諒真はすぐに笑顔を取り繕い、両の拳を軽く掲げた。由宇斗たちも同じように拳を掲げる。

「当たり前だ。絶対に帰ろう」
「おうっ!」
「もちろんよ」

 拳をぶつけ合い、三人は決意を固めた。
しおりを挟む
▼▽▼ みやこ嬢のBL作品はこちら ▼▽▼

《 最新作!大学生同士のえっちな純愛 》
お付き合いはお試しセックスの後で。

《 騎士団長と貴族の少年の恋 》
侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい

《 親友同士の依存から始まる関係 》
君を繋ぎとめるためのただひとつの方法

《 わんこ営業マン×メガネ敬語総務 》
営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい

《 ダンジョン探索で深まる関係 》
凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
感想 48

あなたにおすすめの小説

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

秘めやかな愛に守られて【目覚めたらそこは獣人国の男色用遊郭でした】

カミヤルイ
BL
目覚めたら、そこは獣人が住む異世界の遊郭だった── 十五歳のときに獣人世界に転移した毬也は、男色向け遊郭で下働きとして生活している。 下働き仲間で猫獣人の月華は転移した毬也を最初に見つけ、救ってくれた恩人で、獣人国では「ケダモノ」と呼ばれてつまはじき者である毬也のそばを離れず、いつも守ってくれる。 猫族だからかスキンシップは他人が呆れるほど密で独占欲も感じるが、家族の愛に飢えていた毬也は嬉しく、このまま変わらず一緒にいたいと思っていた。 だが年月が過ぎ、月華にも毬也にも男娼になる日がやってきて、二人の関係性に変化が生じ──── 独占欲が強いこっそり見守り獣人×純情な異世界転移少年の初恋を貫く物語。 表紙は「事故番の夫は僕を愛さない」に続いて、天宮叶さんです。 @amamiyakyo0217

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

処理中です...