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第10章 強いられた運命
65話・交換条件
しおりを挟む「……くっ……」
諒真が去った後、苦しげに呻きながら創吾は床に膝をついて蹲っていた。自分で自分の身体を押さえ込み、黒い感情が噴き出さないよう必死に堪える。呼吸は乱れ、額には脂汗が浮き、視界が歪む。
そんな中、どこからともなく嘲笑うような声が聞こえてきた。
「やはり適任は貴方でしたね」
「……ルノー……!」
声の主は大司教ルノーだった。
彼はゆるりと結われた長い髪に白髪を揺らし、いつの間にか創吾の目の前に立っていた。整った顔立ちにはいつもと変わらぬ穏やかな笑みが浮かんでいる。
「どこから入ったんです」
「抜け道があると以前教えて差し上げたでしょう。こちらの館も大聖堂と同じく、様々な場所に秘密の扉があるのですよ」
そう言いながら、ルノーは手にした鍵束をちらりと見せてきた。この部屋だけでなく、他の客室の鍵もあるのだろう。
「何をしに……」
「ソウゴ様が苦しんでおられるようでしたので、お助けしようかと」
「助ける?」
眉間に皺を寄せ、創吾は目の前に立つルノーを見上げた。こうして話をしている間にも、行き場のない黒いモノが暴れ出しそうになっている。それを意志の力だけで身体の内に閉じ込めている状態だ。楽になるのならば縋りたい。
だが、ルノーだけは駄目だと本能が警鐘を鳴らす。荒い呼吸を繰り返しながら、創吾はじりじりと窓際まで後退した。
「何やら嗅ぎ回っているようですね。私に聞いて下されば何でもお教え致しますのに」
にっこりと笑うルノーを、創吾は鼻で笑った。
「ハイデルベルド教国に都合の良い話なら聞きたくありません。僕が知りたいのは客観的な真実です」
異世界に召喚され、言われるがままに魔王を倒した。その結果、呪われた状態で元の世界に戻り、制約の中で日常生活を送ることに苦痛を感じ始めた頃に再召喚された。呪い云々は勇者一行を異世界に呼び戻すための方便としか思えない。
創吾の言葉にルノーは笑みを消し、袖で口元を隠して目を伏せた。
「……実は、教皇聖下の容態が思わしくないのです。次元を渡る『召喚』は聖下しか使えない秘術。このまま聖下がお隠れになれば、貴方がたは元の世界に帰ることは出来ません」
「そんな……!」
元の世界に戻る術が無くなる。
そうなれば、未成年の由宇斗と将子は親兄弟と離れ離れになってしまう。諒真も『大事な人がいる』と言っていた。異世界に残り続けるという選択は有り得ない。
「治癒魔法は効かないんですか」
「治癒魔法では肉体の限界を越えることはできません」
「限界……」
ほとんどの怪我や病気なら治癒魔法で治せる。教皇が臥せっているというのに、何故自分に頼まないのかと創吾は疑問に思っていた。
姿を直接見たことはないが、謁見の間で御簾越しに聞いた教皇の声は若い男性のものだった。だから年齢も若いのだと勝手に思い込んでいたのだが、実際の年齢は違うのかもしれない。
「私は次代の教皇に成りえる御方を見つけ、即位させるようにと仰せつかっております。……それが貴方です、ソウゴ様」
「僕が、次の教皇に?」
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