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第8章 魔王城跡探索
56話・小さな傷
しおりを挟む突然爆ぜた『呪いの核』に対し、至近距離にいた諒真は身を守る術がなかった。全ての魔力を核の破壊のために使い果たしていたからだ。
兆候を感じた由宇斗が爆発前に駆け出し、諒真の腕を引いて後ろに放り投げ、それを将子がキャッチする。そして創吾が全員の前に立ち、魔力による防壁を築いた。
「くっ……」
しかし、咄嗟に出した防壁は隙間だらけで、その僅かな間を抜けて球体の破片が創吾に当たった。頬や手のひらに小さな傷を作り、血が滲む。
破片の飛散は一瞬で終わった。
広間に敷き詰められていた防御盾はボロボロになっていたが、全てを防ぎきった。そうでなければ、壁や天井に当たって建物が崩れるところだった。それほどの衝撃があった。
「大丈夫か創吾!」
「ええ、かすり傷だけですよ」
「良かった……」
創吾の笑顔につられ、諒真も苦笑いを浮かべた。その脇をすり抜け、ラミエナが創吾に歩み寄る。
「ソウゴ様!顔にお怪我が」
「平気ですよ、これくらい」
頬や手に出来た小さな傷を治癒魔法で治そうとするが、何故か何も起きない。
「……さっきので魔力を使い果たしてしまったようです」
「オレもだ。もう何も出来ない」
糸が切れたようにその場に座り込む創吾。同時に周囲の防御盾が消滅する。維持する魔力すら無くなったからだ。
ラミエナが傍らに膝をつき、手際よく傷の手当をしていく。その姿を眺めながら、諒真は少しだけ複雑な気持ちになった。
防御盾による補強が無くなり、いつ崩れるか分からない状況となった。とりあえず目的である『呪いの核』破壊は果たしたため、一行は魔王城の外に出ることにした。
魔力持ちがふたりとも魔力切れを起こしている。魔力が枯渇して足元が覚束無くなっている諒真にリエロが肩を貸した。創吾の身体はイルダートが支えている。
「悪いなリエロ」
「いえ、お疲れ様でした」
ここに来るまで荷物持ちしかしていないリエロは、ようやく諒真の役に立てたことが嬉しくてはにかんでいる。
その様子を後ろから眺めながら、創吾は眉間に皺を寄せた。実力差を見せつければ身の程を弁えるかと思って同行させてみたが、元々彼は諒真を崇拝している。先ほどの魔法に関しても、本当のすごさを正しく理解出来ていない。
(いや、その程度で身を引くのなら魔王を倒した時点で諦めているか……)
思考が鈍ったのは嫉妬で平常心を失っているからか、と自分に呆れてしまう。
由宇斗と将子が瓦礫を組んで作った簡易の足場を登り、探索メンバーは無事魔王城の外へと脱出した。外で待機していた騎士たちが用意してくれていた仮拠点で夜を明かすことになった。
天幕などは無く、焚き火を囲んで休む。騎士たちが交替で周辺の見回りをしてくれているので、勇者一行は体力の回復に専念した。
「ちょっと疲れたー」
「私も。なんだか気疲れしちゃったわ」
ぐったりと座り込むふたりにイルダートが温かいお茶の入ったカップを手渡す。その際に将子の手に指先が触れてしまい、慌てて離れるが、由宇斗は「あはは、何やってんの~」と無邪気に笑うだけ。
おや、と思った創吾が将子の隣に座り、わざと肩に手を置いてみると、由宇斗は「近いよ創吾さん!」と噛み付かんばかりに怒りをあらわにした。
将子に近付く相手に対し、ほぼ全ての男を警戒していたはずの由宇斗が騎士に対してのみ態度を軟化させている。
これはどういうことだろうと創吾は頭を悩ませる。彼の頬と手のひらにはまだ小さな傷が残っており、時折チクリと痛んだ。
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