57 / 110
第8章 魔王城跡探索
56話・小さな傷
しおりを挟む突然爆ぜた『呪いの核』に対し、至近距離にいた諒真は身を守る術がなかった。全ての魔力を核の破壊のために使い果たしていたからだ。
兆候を感じた由宇斗が爆発前に駆け出し、諒真の腕を引いて後ろに放り投げ、それを将子がキャッチする。そして創吾が全員の前に立ち、魔力による防壁を築いた。
「くっ……」
しかし、咄嗟に出した防壁は隙間だらけで、その僅かな間を抜けて球体の破片が創吾に当たった。頬や手のひらに小さな傷を作り、血が滲む。
破片の飛散は一瞬で終わった。
広間に敷き詰められていた防御盾はボロボロになっていたが、全てを防ぎきった。そうでなければ、壁や天井に当たって建物が崩れるところだった。それほどの衝撃があった。
「大丈夫か創吾!」
「ええ、かすり傷だけですよ」
「良かった……」
創吾の笑顔につられ、諒真も苦笑いを浮かべた。その脇をすり抜け、ラミエナが創吾に歩み寄る。
「ソウゴ様!顔にお怪我が」
「平気ですよ、これくらい」
頬や手に出来た小さな傷を治癒魔法で治そうとするが、何故か何も起きない。
「……さっきので魔力を使い果たしてしまったようです」
「オレもだ。もう何も出来ない」
糸が切れたようにその場に座り込む創吾。同時に周囲の防御盾が消滅する。維持する魔力すら無くなったからだ。
ラミエナが傍らに膝をつき、手際よく傷の手当をしていく。その姿を眺めながら、諒真は少しだけ複雑な気持ちになった。
防御盾による補強が無くなり、いつ崩れるか分からない状況となった。とりあえず目的である『呪いの核』破壊は果たしたため、一行は魔王城の外に出ることにした。
魔力持ちがふたりとも魔力切れを起こしている。魔力が枯渇して足元が覚束無くなっている諒真にリエロが肩を貸した。創吾の身体はイルダートが支えている。
「悪いなリエロ」
「いえ、お疲れ様でした」
ここに来るまで荷物持ちしかしていないリエロは、ようやく諒真の役に立てたことが嬉しくてはにかんでいる。
その様子を後ろから眺めながら、創吾は眉間に皺を寄せた。実力差を見せつければ身の程を弁えるかと思って同行させてみたが、元々彼は諒真を崇拝している。先ほどの魔法に関しても、本当のすごさを正しく理解出来ていない。
(いや、その程度で身を引くのなら魔王を倒した時点で諦めているか……)
思考が鈍ったのは嫉妬で平常心を失っているからか、と自分に呆れてしまう。
由宇斗と将子が瓦礫を組んで作った簡易の足場を登り、探索メンバーは無事魔王城の外へと脱出した。外で待機していた騎士たちが用意してくれていた仮拠点で夜を明かすことになった。
天幕などは無く、焚き火を囲んで休む。騎士たちが交替で周辺の見回りをしてくれているので、勇者一行は体力の回復に専念した。
「ちょっと疲れたー」
「私も。なんだか気疲れしちゃったわ」
ぐったりと座り込むふたりにイルダートが温かいお茶の入ったカップを手渡す。その際に将子の手に指先が触れてしまい、慌てて離れるが、由宇斗は「あはは、何やってんの~」と無邪気に笑うだけ。
おや、と思った創吾が将子の隣に座り、わざと肩に手を置いてみると、由宇斗は「近いよ創吾さん!」と噛み付かんばかりに怒りをあらわにした。
将子に近付く相手に対し、ほぼ全ての男を警戒していたはずの由宇斗が騎士に対してのみ態度を軟化させている。
これはどういうことだろうと創吾は頭を悩ませる。彼の頬と手のひらにはまだ小さな傷が残っており、時折チクリと痛んだ。
10
《 最新作!大学生同士のえっちな純愛 》
お付き合いはお試しセックスの後で。
《 騎士団長と貴族の少年の恋 》
侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい
《 親友同士の依存から始まる関係 》
君を繋ぎとめるためのただひとつの方法
《 わんこ営業マン×メガネ敬語総務 》
営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい
《 ダンジョン探索で深まる関係 》
凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。
秘めやかな愛に守られて【目覚めたらそこは獣人国の男色用遊郭でした】
カミヤルイ
BL
目覚めたら、そこは獣人が住む異世界の遊郭だった──
十五歳のときに獣人世界に転移した毬也は、男色向け遊郭で下働きとして生活している。
下働き仲間で猫獣人の月華は転移した毬也を最初に見つけ、救ってくれた恩人で、獣人国では「ケダモノ」と呼ばれてつまはじき者である毬也のそばを離れず、いつも守ってくれる。
猫族だからかスキンシップは他人が呆れるほど密で独占欲も感じるが、家族の愛に飢えていた毬也は嬉しく、このまま変わらず一緒にいたいと思っていた。
だが年月が過ぎ、月華にも毬也にも男娼になる日がやってきて、二人の関係性に変化が生じ────
独占欲が強いこっそり見守り獣人×純情な異世界転移少年の初恋を貫く物語。
表紙は「事故番の夫は僕を愛さない」に続いて、天宮叶さんです。
@amamiyakyo0217

お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる