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第7章 入り乱れる思惑
43話・拠点形成
しおりを挟む諒真の転移魔法で魔王城手前の集落跡地に転移する。一度には運びきれず、何度かに分けて聖騎士団の隊と物資を転移させた。
「リョウマ様」
「……リエロ」
その中にはもちろんリエロの姿もあった。彼は何か言いたげにしている。他の団員がちらちらと様子を窺っていることに気付き、諒真はわざと親しげに肩を抱いて耳元に顔を寄せた。
「宿舎に戻ってからなんか聞かれた?」
「いえ。朝帰りでしたので」
「そのまま勘違いさせとこう。いいよな」
「は、はい。リョウマ様が良いのでしたら」
明らかにホッとしたように安堵の表情を浮かべているところをみると、リエロは微妙な立場に置かれているのだろう。
異世界に繋ぎ止めるための手段として夜伽に来たのだ。今は誤魔化せたとしても、もし自分が元の世界に戻ってしまったら彼はどうなるのか。酷い目に遭わされたりしないか。そう考えると、嘘をつき続けるこの選択が正しいのか分からなくなる。
離れた場所で運ぶ物資を確認しながら、諒真の気持ちが揺れる。誰かを犠牲にしてまで元の世界に戻る必要があるのかと考え始めていた。
「……そうなったら、オレは」
「諒真くん」
声を掛けられ顔をあげると、真横に創吾が立っていた。手には物資のリストがある。打ち合わせに見せ掛け、小さな声で会話する。
「向こうの拠点で夜を過ごす際はリエロを呼んで一時間ほど一緒に過ごしたほうがいいでしょう。でも、本当に関係を持ったらダメですよ」
「当たり前だろ、あいつは男だぞ」
「性別なんて関係ありませんよ。現に、彼は自分からお役目を志願したと聞きました」
「自分から?なんで?」
「さあ。諒真くんを落とせる自信があるのか他に理由があるのか知りませんけど」
そう言い残して創吾は由宇斗の元へ戻っていった。暴走しがちな『勇者』を抑えるためだ。昨夜の貴族骨折事件が効いているのか、由宇斗と将子を狙う輩は居なくなった。だが、下心が一切無くても将子に近付く男は全員問答無用で殴られるのだ。先ほどから数名の騎士が被害に遭っており、その度に創吾は彼らを治してやらねばならない。
出来るだけ諒真と共に行動したいが、こちらを放置するわけにもいかず、創吾は歯痒い思いをしていた。
ハイデルベルド教国と隣国アイデルベルドの国境にある山脈。そこに魔王の城が存在していた。切り立った岩壁に魔力で建造された城だ。主人たる魔王が滅びた途端に崩れ落ち、今は見る影もない。
そこから数キロ南下した場所に集落跡地がある。ここに拠点を築き、呪いの核を破壊するために行動する予定だ。一日で終わればいいが、何が起こるか分からないため万全を期して挑む。
かつての集落は建物の基礎部分を残し、後は瓦礫の山となっている。足場を片付け、持参した天幕を張るのは聖騎士団の面々だ。彼らは慣れた手付きで支度を始め、勇者一行は周辺の警戒を任された。
魔物の姿は消えたが、代わりに野生動物や野盗が幅を利かせるようになっている。荒れた地に豊富な物資があれば当然狙われる。
早速現れた盗っ人の逃げ場を魔法で無くすなどして捕縛の手伝いをしながら、諒真は浮かない顔をしていた。やはり人間相手では攻撃魔法が発動しない。威嚇だけなら可能だが、倒さねばならなくなった場合は何も出来ない。
「こーゆーのって暮らしが安定しなけりゃ同じことだよな。また誰かが野盗になるだけだ。なんとかならないものかなぁ」
「対策を考えるのはこちらの世界の人の役目ですよ。何のために貴族や領主がいるんです」
「でも……」
その貴族たちは勇者一行を取り込もうと躍起になってあらゆる手を講じている。そんな無駄なことに手間と金を掛けるくらいなら真面目に統治してもらいたいものだ、と諒真は溜め息を吐き出した。
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