【完結】魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話

みやこ嬢

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第6章 2度目の異世界召喚

36話・勇者の変化

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 主賓である勇者一行はひと通りの挨拶を終えた後、大司教ルノーが待つ席へと案内された。教皇の姿はない。再召喚で魔力を使い果たして休んでいる、とのことだ。

「宴は楽しんでいただけておりますでしょうか」
「めっちゃ楽しー!ゴハンも美味しいし」
「それは良かった。お飲み物はいかがです?色々と取り揃えておりますよ」

 そばに控えている給仕たちはそれぞれワインや蒸留酒、果実水のボトルを携えている。料理も目の前のテーブルに所狭しと並べられており、かなりの歓迎ムードが漂っている。

「ところで、元の世界では不都合はありませんでしたか?魔王の呪いのせいとはいえ、能力を隠しての暮らしはさぞ不便でしたでしょう」
「ああ、そうですね……」

 気遣わしげなルノーの問いに、ちらりと創吾そうごに視線を向けてから諒真りょうまが曖昧に返事をした。
 不便じゃなかったといえば嘘になる。死の呪いに怯え、溢れる魔力を持て余す日々は確かに辛かった。呪いさえなければと思わぬ日はなかったが、創吾がいたから二ヶ月もの間耐えることができた。

「こちらの世界にいる間はどうぞ存分に御力をふるってください。……実は、魔王を討伐したおかげで魔物は消えましたが、生態系が狂ったからか各地で大型の動物が暴れておりまして。少々難儀しております」

 今まで幅を利かせていた魔物が消え、抑圧から解放された大型の動物が暴走する事件が起きている。しばらくすれば落ち着くだろうが、民に被害が出ないよう聖騎士団は対応に追われているらしい。魔物に比べれば容易い相手だが、数が多いため手が回らないという。

「俺、やっつけてくるよ!どこ?」
「頼もしいお言葉ですユウト様。明日案内致しますので、今宵はどうぞ宴を楽しんでください」
「はーいッ!」

 ガツガツと目の前のご馳走を食らう由宇斗ゆうとを見ながら、将子しょうこが不安げな表情を浮かべている。テーブルマナーがどうとかではなく、何か違和感を感じているようだ。
 それを察した諒真は創吾に目配せをしてから、将子だけに聞こえるよう魔法で声を掛け、会場の隅へと誘い出した。

「どうした。気分が悪いのか?」
「……そういうワケじゃないんだけど」

 テーブルでルノーと笑顔で話している由宇斗を離れた場所から見つめる将子。気丈な彼女にしては珍しく落ち着かない様子だ。

「ねえ、由宇斗なんか変だと思わない?」
「そうか?まあ、少し浮かれているようには見えるけど」
「私も最初はみんなと久々に集まれたのが嬉しいんだって思ってた。だけど、やっぱり様子がおかしいの」
「それは再召喚されてからか?」

 諒真の問いに、将子は首を横に振った。

「──違うわ。たぶん元の世界に戻る前から少しおかしかったと思う」

 予想外の言葉に諒真は唖然とした。まさかそんな前からおかしいとは夢にも思っていなかったからだ。

「テンションが高いだけじゃなくて、感情のたがが外れやすくなってるのよ。前の由宇斗はもう少し落ち着きがあったし、人前ではしっかり勇者を演じていたわ」
「それは、確かに」

 将子と顔を寄せ合い、小声で話し込む。すると、会場内がにわかに騒がしくなった。顔を上げると、先ほどのテーブルから由宇斗がこちらに向かって歩いてくるところだった。周りにいる貴族たちを避けることなく真っ直ぐ突き進んでくる。
 由宇斗は笑顔を浮かべてはいるが、目は笑っていなかった。

「どうした将子、早く戻っておいでよ」
「え、ええ。すぐ行くわ」
「諒真さんとふたりで何話してたの?俺には言えないこと?」

 ちらりと諒真を見る目は、まるで敵対する魔物を見下ろすように冷たい。これまで由宇斗がこんな目で仲間を見たことはなかった。

「そんなことないわ。間違ってお酒飲んじゃったから酔いを覚ましてただけよ。諒真さんは付き添ってくれてたの」
「ほんとに?もう大丈夫?」

 宥めるため、将子は彼に近寄って腕を組んだ。普段の彼女なら冷たく突き放していただろうに、それほどまでに『今の』由宇斗を怒らせまいとしているのだ。

「心配かけてごめんなさい由宇斗」
「いいんだよ将子♡」

 敵意を剥き出しにしていた由宇斗だが、将子の言葉で気持ちが落ち着いてきたのか、すぐにいつもの無邪気な笑顔に戻った。

 先にテーブルへと戻ったふたりを見送りながら、諒真は仲間の微妙な変化を感じ取った。
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