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第5章 エスカレートする行為
29話・空回りする思い
しおりを挟む三日おきにふたりで集まって魔力を消費する。ただそれだけのはずなのに、何故こんな事態になってしまったのだろうか。
創吾は諒真の反応を見ながら少しずつ触る範囲を増やしている。
「っ、ちょ、待って」
下腹部に手を伸ばされ、諒真は必死の抵抗を試みていた。スラックスの上から軽く撫でられただけで身体が跳ね、声が上がる。
「し、下は触らなくても」
「だって、諒真くんキスに慣れちゃったじゃないですか」
ズバッと指摘され、諒真は恥ずかしさで顔を真っ赤に染めて俯いた。
創吾からの接触に慣れてしまったのは事実だが、これは由々しき問題である。これは精神を激しく揺さぶり魔法を暴発させるための行為。慣れてしまえば更に次の段階に進まなくてはならない。
「あとは生殖器に触れるしかありませんよ」
「生殖器って言い方やめろ」
「じゃあなんて言えば良いと思います?」
「セクハラ!!!!」
言葉責め?に激怒したことで今回も無事魔法が暴発した。
通常空間に戻ってから、諒真はソファーに身体を投げ出してぐったりしていた。魔力を使い果たした疲労と精神的なダメージの両方から放心状態に陥っているのだ。
「もうやだ。なにこの辱め……」
「でも、過去最短記録更新しましたよ。今回はたったの十五分で終わりました」
腕時計の文字盤を指差しながら嬉しそうに語る創吾を見上げ、盛大な溜め息をつく。
「おまえは嫌じゃないのかよ」
「何がです?」
「だから、男とキスとか……」
「嫌ではないですよ。必要な行為ですから」
平然とした態度でさらりと答える様子に、彼は本当にそう思っているのだろうと諒真は悟った。医師として、患者に医療行為を行う感覚と同じなのだと。
効率良く目的を果たすために必要な行為だと分かっているのに、自分ばかりが心を掻き乱されているようで面白くなかった。
「はぁ。魔力持ちが由宇斗や将子じゃなくて良かった。高校生相手にこんな真似するわけにはいかないもんな。淫行で捕まっちまう」
「彼らにはこんなことしませんよ」
「え?」
「あのふたりは繊細さとは対極にありますからね。どんな状況でも、例え標的が無くても、躊躇なく強力な魔法を使いそうです」
「ハハ、確かに」
今の状況は諒真が抱える『人を傷付けたくない』というトラウマが招いたもの。強力な攻撃魔法が撃てなくなったから『仕方なく』創吾が手を貸している。
脳筋組のふたりはどんな悲惨な目に遭っても平然と受け入れ、乗り越えるだけの強さがある。だから、こんな小手先の対策など必要としない。
「……やっぱ、オレが弱いだけか」
散々世話になっておきながら、弱音を吐いたり文句を言ったり抵抗したり。甘え過ぎていると分かっている。
創吾を頼るしかないというのに。
諒真の葛藤に気付きながらも、創吾は少し苛立ちを感じていた。
もし由宇斗たちが同じ状況に陥ったとしても『こんな真似』は絶対にしない。彼らが未成年だからではなく、そこまでする気がないからだ。もちろん仲間としての情はある。手を貸したり知恵を出し合う手間も惜しみはしない。
理由をこじつけてでも触れたいと思う相手は諒真だけ。その思いは全く本人に伝わっておらず、空回りしていた。
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