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第5章 エスカレートする行為
28話・抗議の複数属性同時発動
しおりを挟むまたこの時間が来た、と諒真は浮かない顔で真っ白な空間に立っていた。
笑顔の創吾が手を差し伸べ、身体を寄せてくる。黙って俯いていると、頬を両手で挟まれて上を向けさせられた。間近で視線が交わり、思わず目をそらそうとするが、それより早く創吾の唇が諒真に重ねられた。
「ん……ッ」
反射で肩や腕に力が入るが、あらかじめ何をされるのか分かっていれば耐えられる。
「おや、慣れちゃいました?」
「我慢してんだよ」
唇を離した創吾に尋ねられ、諒真は素っ気なく答えた。怒っているわけではない。必要だからといって、同性の友人とこんな真似をしなければならない状況にまだ納得できていないのだ。
「……我慢、ですか」
ふと、創吾の声がワントーン低くなる。
「諒真くん、分かってます?これは効率良く魔力を発散させるためにやってるんですよ。抑え込んだら意味ないでしょう」
「そ、それもそうだな」
とはいえ、普通のキスに慣れたのは事実だ。前回は完全に不意を突かれたが、今日は心の準備が出来ている。最近よくハグされるものだから抱き締められることにも慣れてきた。
「やっぱ地道に時間かけてやるしかないよな」
ちまちまと小さな炎弾を出して魔力を消費する。時間はかかってしまうが、男同士でキスをするより精神的な負担は少なく済む。
しかし、諒真の意見を創吾は却下した。
「慣れてしまったのなら、もっとすごいことをしたらいいんですよ」
「これ以上何を……んんッ」
再び唇を重ねられ、諒真は目を見開いた。整った創吾の顔が超至近距離にある。突き飛ばそうと振り上げた腕はすぐに絡め取られた。創吾の手が掴んでいるだけではない。補助魔法のひとつ、敵の逃亡を阻むための緊縛で身動きを封じられている。
首を捻って顔を離そうとするが逃げられない。うまく息継ぎが出来ず、僅かに口を開いた隙に舌がねじ込まれた。
「むぐ、う」
抗議の意志を伝えようとするが、呻き声以外上げることも出来ない。動けぬまま、ぬるりと口内に這い回る舌に翻弄される。ふと、唇を重ねたまま目が合った。見られていることに気付いた創吾は目を細め、フッと笑う。
その余裕な態度に諒真がキレた。
前回同様、空間を埋め尽くす攻撃魔法が発動する。しかも、今回は炎雷だけではない。竜巻、氷結、重力、核熱……全て違う属性の魔法が同時に発動している。
これには創吾も驚いたようで、慌てて自分と諒真を囲う小さく強靭な防御盾のドームを作った。その直後、外部から激しい衝撃が加わり、ドーム全体が軋む。
全ての攻撃魔法が消え、防御盾が砕け散るまでの間、創吾は唇を離さなかった。
「ん~~!!」
流石に長過ぎる!と諒真が拳を作って創吾の胸を叩いて訴え、ようやく解放された頃には通常空間であるマンションに戻っていた。
「はぁ、びっくりしました。諒真くん、複数属性を同時に発動させるなんて出来たんですねぇ」
「びっくりしたのはオレだよ!」
「痛覚遮断や全属性耐性上昇かけても心配だったので最上級の治癒魔法まで使っちゃいましたよ。あはは、防げて良かった」
「創吾!!」
食って掛かる諒真の肩を両手で押さえる。眉間に皺を寄せ、涙目になっている姿に、創吾はにっこり微笑んでみせた。
「さ、ごはん食べに行きましょうか」
「今はそんな話してな──」
ぐう、と諒真の腹の虫が鳴いた。魔力を使い果たし、身体が栄養と休息を求めているのだ。
「今の時間ならまだどの店も開いてますよ。何が食べたいですか?」
「…………佐賀牛」
「ふふ、わかりました。焼き肉とステーキどちらにします?」
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「了解です。じゃ、行きましょうか」
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